髙木さんと伊野尾さんの短編集3 (ページ44)

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「いや、待って。こんな状況じゃ帰せないよ。帰せる訳ないでしょ？もう遅いし。」

そう言って伊野尾君を引き寄せて、伊野尾君の涙を俺の手で拭う。

何で？俺何した？潤んだ瞳の伊野尾君に見つめられて、俺の心臓はなぜかドクンと音を立てた。ねえ、伊野尾君。伊野尾君は俺に何を隠してるの。

「そんな見るなよ。俺の泣き顔。」

そう言って剥れる。

「あ、ごめん。ってか本当にごめん。覚えてなくて。なんか気に触ることも言っちゃったみたいだし。でも思ってもないことじゃないよ。嘘じゃない。本当に羨ましいって思った。」

　それは本当。こんな魅力的な人にこんなに思われてる人羨ましいって思って当然じゃない？こんな伊野尾君を泣かせちゃうくらい思われてる人。まぁ、半分は俺のデリカシーのなさで泣かせてるんだろうけど。

　悔しいって思っちゃったのも本当で。伊野尾君がその人に取られちゃったら寂しい、嫌だって思ったのも本当。でも何で？何で俺そんなこと思うんだろう。。。

　俺はその人に嫉妬してる？嫉妬してるのか。なんでだろう？別に伊野尾君は俺のものな訳でもないのに。伊野尾君を取られたくないって思ってる自分がいる。

「うそつき。」

「え？」

「おまえだよ。」

「え？」

「おまえ。俺が結婚したいって思ってんのはお前だよ。」

「は？」

「ほら？な？困ってる。だから言ったろ。叶わないって。叶えるつもりもないし、言うつもりもなかったって。」

俺は伊野尾君のその言葉に呆気にとられる。え？何？、、、、俺？、、、、俺？ってどういう。。。

「ごめん。変なこと言って。もう帰るから。忘れて。さっきも言ったけど、叶わないってわかってるし、叶えるつもりもないから。酔っ払いの戯言だと思って聴き流して。」

いつも適当なことばかり言う伊野尾君だけど、今の言葉が真実だっていうのは馬鹿な俺でもわかる。それくらい真剣で、声が震えてて。伊野尾君が一所懸命泣くのを堪えてるのがわかった。