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「毎日こんくらいの時間のテレビショッピング見とるときにさ」


タツはすこし前屈みになって、膝に頬杖をつきながらテレビをまっすぐ見る。画面には電話番号がおおきくうつし出されていた。


「やっぱり俺って幽霊なんやあて思う。」


その声はわずかに失笑のようなものを含んでいて、私はななめ後ろからタツの耳とか頬のあたりに視線を置く。



「けどな、それって一年前まではなにしててもどこにおっても思ってたことやったなって思って。Aちゃんとおると自分が幽霊やったこと、ときどき忘れてんねん。」


今度ははっきりと笑ってそう言って、私のほうを振り向いた。

それはタツにとっていいことなのか、悪いことなのか、よくわからなくて、私はソファの上で膝をかかえてみる。


「…結局この一年、タツの記憶全然戻らなかったね。」


「な、戻られへんかったな。」


タツは視線を天井にゆらりと泳がせて、そういえば、みたいなのんびりした口調で言う。そういえば、そんな目的もあったな、みたいな。


「素朴な疑問なんだけどさ、真剣に思い出す気ある?」


「このままでもええかもって最近よう思う。この生活たのしいし。」


「いいわけないじゃん。全然よくない。」


「なんでよ。Aちゃん、俺と暮らすんもお飽きたん?」


わざとらしく下唇をつきだすタツに、私は「そういうことじゃないけど」と言って、なんとなくそのあとを言い淀んでしまう。


テレビの画面はコマーシャルに切り替わる。自動車とバイクの保険のコマーシャル。24時間、365日、どこでも対応。ごくわずかの音量で流れるコマーシャルは誰かのないしょ話みたいに聞こえた。


タツはまた頬杖をついて、テレビに目を向けている。


正面から見たときにはわからないけれど、丸みを帯びていてどこか幼さのようなものを覚える頰。まっすぐと伸びたまつ毛のかんじ。

私の脳裏にぼやけた面影が思い浮かぶ。


「今思い出したんだけどね」


私もテレビの画面をまっすぐ見る。タツが顔をこちらに向けたのが視界に入った。




*→←「やさしくて淋しい」



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蒼 夢見子(プロフ) - まゆ☆まゆさん» まゆ☆まゆ様、お久しぶりです…!早速コメントくださりありがとうございます。かなり前のお話をまだ読み返していただけてうれしいです…(T . T)少しずつの更新にはなりますがお付き合いいただけると幸いです! (2022年11月20日 18時) (レス) id: a5f8e6e331 (このIDを非表示/違反報告)
まゆ☆まゆ(プロフ) - お久しぶりです。数日前に満月の夜は〜を読み返したばかりです(⁠^⁠^⁠)また蒼夢見子さんの新作読めるの嬉しいです♪続きも楽しみにしてます。 (2022年11月20日 6時) (レス) id: 9548b7921c (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:蒼 夢見子 | 作成日時:2022年11月20日 0時

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