▷ 幼少期 １０ ページ11
「なんだなんだ、そんなに泣いたりして。ルフィと喧嘩でもして泣かされたのか？」
「ひっ、く、ぐずっ、うぅ……シャングズざんﾞ……！！」
「うおぉ、Aが自分から抱きついてくる日が来るとは思ってもみなかった」
ぐずぐずと涙を流しながら鼻をすする。あんなに苦手だったはずのシャンクスさんが、今は神様のようにも思えた。ルフィを助けてくれるのなら誰でも良かった。シャンクスさんがどのくらい強い人なのかは知らないけれど、シャンクスさんならこの状況を何とかしてくれるという謎の自信だけが胸の奥底にはあった。
縋り付くようにシャンクスさんの懐に抱き着くと、彼は驚きつつもその大きな腕で私の体を軽々と抱きとめた。あれだけ怖かった大きな体も、こんな状況になってしまえば一瞬で頼もしくなってしまう。延々と泣き続ける私を見てただ事ではないと感じたのか、シャンクスさんは真剣な表情で「何があった？」と問いかけてきた。
＿＿その瞬間、辺りの空気が僅かにピリついた。
初めて体験した感覚に体を小刻みに震わせる。すると、私を真っ直ぐと見据えるシャンクスさんを副船長であるベックマンさんが咎めるように「おい、お頭」と肩に手を乗せた。シャンクスさんは意識を引き戻されたかのようにハッとすると、申し訳なさそうに眉尻を下げて「悪いな。少し取り乱したな」となるべく私を怖がらせないように優しく語りかける。
シャンクスさん達は私やルフィの前では上手く隠しているのかもしれないけれど、彼らだって立派な海賊なのだ。私達子供には見せない怖い面が1つや2つあっても何らおかしくない。それを分かっていたとしても、今のシャンクスさんはなぜかとても怖かった。
「A、何があったのか教えてくれ。必ずおれ達がお前達を助ける」
「……あのね、ル、ルフィが……！！」
＿＿私は、人と話すのがどうしても苦手だった。
今だってシャンクスさん達の前で事情を話しているのだって、逃げ出したくなるくらいには嫌。だけど今、どうしても助けたい人がいるから。こんな私の話にも懸命に耳を傾けてくれる人がいるから。
私は、私に出来る精一杯のことをするんだ。
「……なるほどな。事情は分かった。ルフィのことは任せろ。必ず助けるさ」
「うん……！」
「Aも、よく頑張ったな。おれ達がルフィを助けたら、お前がうんとルフィを褒めてあげてくれ。あいつも体を張って“守りたいもの”を守ったみてぇだからな」
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