一匹の悪役の話 (ページ19)

今日:2 hit、昨日:1 hit、合計:80,047 hit

15話ページ19

結局あの後、リクルーティングのメンバーが帰ってきたり、ファージャに夕飯の支度を誘われたりしたため時計を買う時間がなくなってしまった

今は広間でくつろいでいる最中

明日のメンバーはアップル、マルフィ、エイトフット、ファージャ、ハーデス、私の6人

…気が重い

「マミさんの髪は美しいですわね」

「痛んでもないなァ、手入れとかなにしとるん？」

先程から私の後ろでは暇を持て余した女性2人、ファージャとヴェールが私の髪をアレンジして遊んでいた
2人の手が交互に髪を撫でるのが結構心地いい

『特になにも…髪って手入れが必要なの？』

「教えたるから、今度一緒にお風呂入るで！」

「わたくしもご一緒しますわ！」

きゃっきゃとはしゃぐ彼女達は実に可愛らしい
おかげで、明日への不安や憂鬱さが多少薄れたように感じた

------------

「さぁまずはリクルーター達のお手本をごらんください！1.2.3.4！」

シックスポーズダンス、という音楽に合わせて私達のポーズをとるダンスが始まる
まだ3日目にもかかわらず、既に慣れた動きでポーズをとる人間もちらほらいた
すごい順応力だ

私達もポーズをとりながら、人間達の近くを歩く
あちこちでカメラを構える人間も見えた
ふと目に入った女性に近付き覗き込む

『撮ってないで一緒にやりなさい』

「は、はい！」

『ん、よろしい』

にっこりと微笑むと女性は頬を赤く染めた
周りからは黄色い声が上がる
…なかなか頭に響く声だ

そのまま別のとこにいこうと足を伸ばした時だった

とんっ

『えっ？』

背中を押される感覚

だいぶ脚にも慣れたとはいえ、それは一人で動く時のことに限る
外的衝撃にはまだ確実に慣れていない

押されるがまま、前のめりに倒れそうになったその時

「っと…」

ぐいっ
横から誰かに肩を抱かれ、かろうじて転ばずに済んだ
人間達からまた一段と大きな黄色い声が上がる
驚いて顔を上げると、見えたのはあの血色の悪い不健康な顔
彼…エイトフットは少し気まずそうに目線をそらすと、すぐ私の肩から手を退けた

「…気ぃつけろ、慣れてねェんだからよ」

『…え、えぇ…』

私がしっかり立っているのを確認すると、彼はまたすぐにポーズダンスにもどっていく

…どきどきと鳴る鼓動は、きっと転びかけたせいだ

ふと押された方を見たが、人間達とはだいぶ距離が離れていて手を伸ばせる位置ではない
不思議に思いつつも、私もまたダンスへと戻っていった