ゲーセン ページ32
さて、ゲームセンターまでやってきた二人。
当然変装は完璧だ。
｢ふふ……お忍びですね……｣
｢おう、楽しそうなら何よりだな。どうする？｣
｢そうですね……｣
奏乃が辺りを見回せば、目眩がしてきそうなほど広がるゲームの数々が奏乃を歓迎する。
暫く歩き回り、奏乃が目を留めたのは。
｢……これ、欲しいです……！｣
奏乃が指差したのは、一つのクレーンゲーム。
その景品は、一つの大きなぬいぐるみ。
可愛らしい、猫のぬいぐるみだ。
｢へぇ、こういうの好きなのか｣
｢いや、その……かわいいじゃないですか｣
｢そうだな｣
ふっと笑って微笑む東矢の目が、本当は自分に向けられているのではないか。
そんなことを考えてしまい、我ながら自意識過剰だなと嘲笑する。
｢んじゃ、やるか｣
｢はい｣
東矢がコインを投入すれば、制限時間を示す画面が点灯し、ボタンが早く押せと言わんばかりに光出す。
｢さてと、まずは左右だよな｣
一つ目のボタンを押し、左右の位置を合わせる。
｢奏乃ー？｣
｢はいはーい｣
奏乃が横に回り、奥行きを東矢に伝える。
｢……そこです！｣
｢おう！｣
奏乃の声が届くと同時、東矢が手を離せばアームが静止し降下していく。
｢よし、取り敢えず掴んだ……｣
……が、やはりクレーンゲームは上手く行かないものである。
確かにぬいぐるみを持ち上げたアームだが、戻っていく最中で落としてしまった。
｢ああっ、惜しい……！｣
｢でも近づいたな。もう一回だ｣
再びコインを入れて、操作を始める。
｢お願いします……！｣
奏乃がガッチリと掴んだアームに願いを託す。
｢……あっ、勝った｣
｢えっ｣
そう呟いた東矢の視線の先。
少しだけズレていたアームの一本が、ぬいぐるみのタグにすっぽりと入ったのだ。
そのままぬいぐるみは持ち上がり、タグが引っ掛かって落ちることもなく。
力を解放したアームからするりと抜けて、取り出し口からその姿を二人の前に見せた。
｢やっ……たぁーっ！ ありがとうございます！｣
｢おう、こんくらいどうってこと無いさ｣
｢ふふっ……かわいい……｣
奏乃はぎゅっとぬいぐるみを抱き締める。
その様子を見た東矢の目は、優しくて暖かい、さながら我が子を見守るような愛おしげなものであった。
｢次はあれやりましょう！ 目押しのやつです！｣
｢よっしゃ！｣
二人の挑戦は、その後持ってきた二万円がなくなるまで続いたのだった。
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作者名：クロロフィル@深緑の指揮者 x他1人 | 作者ホームページ：http
作成日時：2023年3月8日 14時
