奪いに来てよ、実弥。

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何故かは自分でもよく分からなかった。



優くんからの電話を切り、雨に降られ、
傘なんて持ってきてないからもちろんずぶ濡れで。




まっすぐ家に帰ればよかったんだ。


でも、私が向かったのは実弥のアパートだった。




今が何時なのか、とか
いきなり行って迷惑かな、とか
そんなことはもう頭の中にはなくて。





ただ、実弥に会いたい。



それしかなかったんだ。




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私の姿を見るなり驚いた顔をする実弥。

そりゃそうだよね。
こんな遅い時間に
しかもずぶ濡れで訪問されたら誰だって驚くよね。

けどもう、そんなことは気にしていられなかった。



“助けて…” 気付けばそう口にして、
実弥の胸に飛び込んでいた。



実弥は優しいから

｢何があったんだよ…｣

と心配そうに話を聞いてくれようとする。




けど、ごめん。

私、自分が思っていたより
はるかにあざとい女だったみたい。



実弥の質問には答えずに


『実弥…私あの日、本当は起きてたよ。

…ちゃんと、何を言ったのか覚えてるよ』



と見上げて言えば実弥は目を見開く。




ー奪いに来てよ。




そう、私は彼にそう言った。
何故そんな言葉が出たのかは自分でも分からなかった。




けど、決して嘘ではなかった。






｢…………っ。｣




腕をぐい、と引かれる。






ーパタン、と扉が閉まった。






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優くん、ごめんね。






私はその夜、過ちを犯した。








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