この巫戯けた素晴らしき世界は誰が為に在る？【文豪ストレイドッグス】 (ページ15)

今日:2 hit、昨日:0 hit、合計:20,814 hit

壱拾参ページ15

.

中原「手前の孤独も、辛さも、俺達には解らねぇ。理解の仕様がねぇ。それでも、傍に立つ事は出来るだろ。首領も其れを望んでる」

『...』

中原「俺は、普通の人間じゃねぇんだ」

中原は帽子で顔を隠し乍ら云う。

中原「人口異能とか云うもんでな。生まれた時の記憶──幼稚園児ぐらいの頃の記憶か？それらが存在しねぇ。其の時俺は、研究施設に閉じ込められてたらしくてな。色々有って其処から出て、今に至る訳だが──...」

『...』

中原「過去の事とかなんざはもう、ほとんど気にしてねぇんだよ」

『...私も、そうなれるかな』

中原「なるかなじゃなくて、なるんだよ。其の為に俺達は──俺は手前の力になるし、何時だって手前を迎え入れてやる」

妃薫は目を伏せ、呟く様に云った。

『私は自分が嫌いよ。美しいと云われる自分も、“鬼”だと云われる自分も。其れでも、...出来る事なら自分を愛したいと思うし。この世界を愛したいと思ってる』

中原「なら、試してみれば良いだろ」

『......そうね。私は只、逃げて来ただけなのかも知れないし。うん、きっとそうなのよ』

中原「半ば強引な納得の仕方を...」

『だったらさ、中原さん』

妃薫は精一杯感情を込める様にして、笑った。

『若し私が又死のうとしたら、助けてね』

中原「...嗚呼。当たり前だ」

中原も笑った。

中原「おし、んじゃ戻るぞ」

『...中也って呼んで良いかな。やっぱり苗字呼びは苦手』

中原「好きにしろ。他の奴等も喜ぶと思うぜ」

『鴎外さんって呼んでみよ』

中原「首領は流石に止めといた方がいい気がするが...」

漸く始まる物語。

独りぼっちだった鬼の歯車は、動き出す。