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壱拾 ページ12

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とあるビルチングの最上階に、その店は有った。

レトロな雰囲気の漂う小さな喫茶店(カッフェ)。其の一番奥──夜の街を見渡せる席で向かい合い座る。



太宰は蒸留酒を、妃薫は度数低めの醸造酒(じょうぞうしゅ)を注文した。




やがて運ばれてきたカクテルとワインで、二人は乾杯をした。


太宰は酒杯を弄び乍ら妃薫をじっと眺めていた。妃薫は暫くの間黙って酒を呑み夜景を眺めていたが、堪え切れなくなった様に云った。



『先刻から何なの。云いたい事があるならハッキリ云って』

太宰「嗚呼、済まないね。噂通り...否、それ以上に美しいと思ったものだから、見惚れてしまった」



まるで口説いているかの様な台詞に、顔を顰める。




太宰「君の事は、探偵社が総力を上げて調べさせて貰ったよ」

『貴方の職場は随分と暇なのね。それで?何か解ったの?』

太宰「いいや( 、、、)何も( 、、)けれどそれで解った( 、、、、、、、、、)




妃薫は太宰の言葉に一瞬動きを止めた。が、又何事もない様にワインに口を付ける。



太宰「だって、何も出ないのは可笑しいじゃあないか( 、、、、、、、、、、)。君はヨコハマだけでなく世界でも( 、、、、)話題になった人間だ。それなのに何一つ情報がないのは明らかに不自然だ。

だから此処だけを頼りに、君を見付けた」




太宰は自分のこめかみを小突いて云った。




太宰「路地裏に座り込んでいた君を見て、心から確信したよ。彼女は人間じゃあないとね( 、、、、、、、、、)

『......随分と、面白い妄想ね』

太宰「外見からしてまだ二十歳や其処らの齢と思える女性が、あんなに孤独な、世界自体から取り残された様な表情をしている筈がない」




妃薫は視線を漂わせ、そしてふと笑みを溢した。太宰は其の反応を伺い、続けた。




太宰「数日前、探偵社に一冊の“絵本”が届いてね。その翌日に君が現れたと情報が入った。

調べても何も出てこない。直前に届いた絵本。案外真実へと辿り着くのは容易だったよ。


あの絵本のお姫様こそ、君の正体なのだろう?」


『......全て、焼き払った筈なんだけれど』




呟く様に発せられた言葉に、太宰は僅か目を見開いた。



『貴方の云う通りよ。『うつくし姫』なんて名前は呪縛の如く、私を苦しめただけのものだったけれど』

壱拾壱→←玖



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作者名:妃薫。 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/nakaharaty1/  
作成日時:2018年3月12日 1時

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