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肆 見世 ページ4

『凛之助』のときには下ろしていた長い髪を一つに結い、路地裏に入る。


秋の冷たい夜風が、硝子の耳飾りを揺らしてみせる。


夕霧から貰った依頼書を読みながら早足に歩く宵丸。


依頼人は16歳の娘「さと」、蝶や花やと可愛がられる、街の人気者だ。


幼いうちに両親を事故でなくしており、得意な踊りで生計を立てている。


だが、不運にも左の脚を折ってしまい、踊れなくなった。


踊れないということは、さとの生死を分けることに直結する。


収入がゼロになれば、飯が食えなくなるのだから。


さとの見世に到着した。


見世の灯りは消えているが、中から歌声が僅かに漏れ聞こえる。


もうじき日付が変わるのだが、さとは未だ起きているようだ。


宵丸は、少し傷んだ木戸を引いて中に入る。


姿の見えないさとに、声をかける。


宵「夜分遅くに申し訳無い。
依頼されて来た者ですが、さとさんはいらっしゃいますか?」


見世は二階建ての建物なのだが、二階から「少々お待ちを」と返事があった。


その声に、宵丸は首を傾げる。


今のは、、、男性の声?


暗い見世に階段を下る足音が響き、声の持ち主と思しき1人の男性が姿を現した。


いや、男性と言うには若すぎる、未だ少年だ。


そもそもその存在に驚いたが、少年の姿を見て、更に驚くこととなる。


少年は、綺麗な長い髪を1つにくくり、黒い布で口元を覆っていた。


掃除でもしていたか、だが埃除けの割にこの布では大きすぎないか?


少年の顔をじっと見る宵丸に、少年が名乗る。


虎「初めまして、私は虎汰郎という者です。
さとさんと共にこの見世を商っています。
さとさんは十分には歩けませんので、部屋まで私がご案内しますね」


この丁寧な物腰から、虎汰郎はかなり良いところのお坊ちゃんなのかな、と宵丸は推測してみる。


職業柄、人の素性を考えずにはいられないのだ。


だが、良いところのお坊ちゃんがこんな見世にいる訳がないよな、と矛盾点に気がつく。


さて、虎汰郎は何者なのか。


さとと共に見世を商っている、と言っていたが、そも、さととはどういう関係なのか。


依頼は『さとの代わりに見世で踊ること』だけだ。


だが、気になることは調べ尽くさないと気が済まない性分の宵丸は、自分の仕事を勝手に1つ追加する。


『さとと虎汰郎の素性を調べ上げること』。

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作者名:水街 | 作成日時:2020年7月5日 22時

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