壱 凛之助と夕霧 ページ1
日本で最も栄えた街、江戸。
その中でも特に『夜』栄えたのは、、、
そう、吉原だ。
格式高い遊郭が軒を連ねるそこは、身を売る女と金を落とす男で溢れている。
中でも抜きん出て人気のある遊郭の名を「華雨楼」と言う。
ここの遊女を身請け出来る者などいない、と噂されるほどの高級遊郭だ。
だがそれでも客は来る。
大量に金を積んで、華雨楼の花魁に会いに来る。
ほら、今夜もまた1人、髪の長い若旦那がやって来た。
「まぁ、凛之助様！！」
「あのお方も熱心ね、毎日同じ子を、、、」
「でもその相手が『夕霧花魁』だから納得だわ」
「夕霧花魁を毎夜買うだけの金は、一体何処から出て来るのでありんしょう？」
その男が見世の前に現れただけでこの騒ぎ。
本気で凛之助に惚れ込み、狙っている女も多い。
凛之助の『本当の姿』を知らないから、皆ここまで無邪気に騒げるのだ。
凛「よぉ、お朱鷺。
今日も夕霧を頼みたいんだが、大丈夫だよな？」
凛之助が少しだけ口角を上げて、華雨楼の女将「お朱鷺」に声を掛ける。
普通、女将も遊女も客には丁寧に接するのだが、お朱鷺と夕霧は違う。
親戚のような友達のような、そんな距離感なのである。
朱「ああ、凛之助、よく来たね。
金さえ出してくれりゃあこっちとしては問題ないよ」
高級遊郭の女将らしからぬ がめつい発言に「当然だ」とでも言いたげに頷く凛之助。
凛「ああ、夕霧に渡しとく」
凛之助はひらひらと手を振って、建物の奥へと姿を消した。
夕霧の部屋は、建物の1番奥にある。
すれ違う遊女たちには目もくれず、凛之助は1人歩く。
部屋のふすまを開けると、夕霧が煙管を吹かしながら窓の外を眺めていた。
凛「夕霧、入るぞ」
ふぅー、と煙を吐き出し、気怠げに凛之助を見やる夕霧。
その美しい顔には、大抵の男は見惚れて物も言えなくなるのだが。
夕「入る前に言いなんし。
事後報告では意味がありんせん」
凛「ははっ、たしかに。
花魁とは言え女性の部屋だったな。
不躾にすまない」
その美貌に臆することもなく会話を続ける。
そして、廊下に誰もいないことを確認してから、凛之助はふすまを静かに閉めた。
凛「もう演技しなくて大丈夫だぞ」
その途端。
夕「ほれ、また依頼が来たぞ。
『何でも屋の宵』は相も変わらずの人気だな」
石花海 凛之助(せのうみ りのすけ)改め、本名を常泉 宵丸(つねいずみ よいまる)と言う。
職業は『何でも屋』だ。
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作者名：水街 | 作成日時：2020年7月5日 22時
