。 ページ43
．
ポロポロと大粒の涙が、瞳から溢れてくる。嗚咽もなにもなく、ただ静かに流れ出てくる。
なんだ、ちゃんと、感情表現出来とるやん。そんなことをこんな時まで考えてしまう俺は、きっともう抜け出せない所まで、この子を愛してしまっているのだろう。
「俺のために、泣いてくれとん？」
「……う、ん……」
「……そっか。なんか、そう思うと涙が勿体ないわ」
あー泣くつもりなんか、微塵も無かったのに。子供の涙というのは、本当に綺麗で。その綺麗さに、輝きに、思わず俺の涙腺も緊張の糸を緩めてしまったようだ。
俺の目からも一筋だけ涙が溢れて、二筋目は流すまいと、涙を強引に拭う。同時にAが小さな口を開き、震える声で、俺に向かって言葉を紡ぎ始めた。
「っ……また、べんきょ、みてくれる……？」
「うん、連絡してくれたら、いつでも駆けつけるよ」
「なや、なやみ、も……きいて、くれる……ッ？」
「うん。Aが言える日まで、ずっと待っとく。その時は、電話してな。俺ライン全然見んから」
……この子は、本当に優しい子だ。どれだけ泣いても、悲しくても、絶対に俺を引き留めるような言葉は言わない。ただ涙を溢しながら俺に抱きついてくるだけで、言葉はあれ以外、なんにも無かった。
それがなにより、不器用だけど誰よりも優しいAらしいと、どこか穏やかな気持ちで思った＿＿＿。
「がわがみざああああああ！！！」
「こうちゃんうるさい」
「そうだぞ」
「逆なんでそんな静かなのっ！？！」
＿＿＿六月三十日。オフィスに置いていた荷物を全て家に運び終わった俺は、残りの軽い荷物を鞄に詰め、肩にかけた。
ここへ社員として来ることはもう、恐らくないだろう。この会社での数年間は長かったようで、短かったような気がする。
俺は今日、あっという間に過ぎ去った濃い三年間をもって、ここを退社する。最後の出勤を終え後は帰るだけの俺を、見知った顔ぶれが見送りに来てくれた。
只でさえ玄関は狭いというのに、男ばっかでむさ苦しいわ。
→
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 578人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
白菜(プロフ) - 凛花さん» 気づくのが遅くなってしまってすみません！イラスト気づいて頂けましたか……！ご想像通りの八神ちゃんが描けていたみたいで良かったです！！ (2020年8月26日 22時) (
レス) id: 367472b3a3 (このIDを非表示/違反報告)
凛花 - イラスト…イラストが…!!もう八神ちゃんですね…可愛い…私の想像した八神ちゃんだ…尊い…(語彙力低下) (2020年8月14日 23時) (レス) id: 0e33e6ca02 (このIDを非表示/違反報告)
白菜(プロフ) - るるあ。さん» ご指摘ありがとうございます！キーボードが押せてなかったのかもしれません…早急に直させて頂きました！るるあさんも体調管理には十分にお気をつけて！ (2020年8月8日 19時) (レス) id: 367472b3a3 (このIDを非表示/違反報告)
るるあ。 - ページ48の後半の「ひしひし」の部分、「ひしひ」になってます…いつも更新ありがとうございます！このご時世なので、お身体には十分お気をつけくださいね！ (2020年8月8日 15時) (レス) id: 807ddee245 (このIDを非表示/違反報告)
白菜(プロフ) - 藍知さん» Sgさんですよ…ほれほれ……() (2020年8月8日 13時) (レス) id: 367472b3a3 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
