･ ページ9
彼の目には私が見えていると、1度でも思った私が馬鹿だった。
ステージで君と目が合った気がしたのも勘違いだ。君と幻覚でも話していたのも、あれは君が私を縛り付けていたんじゃなくて、私がずっとずっと、君をライバルだと、追いかけていたから。私が、本当は彼に依存していたせいだ。
結局、今回の演劇を見に来たのだって。チケットだって。全て用意したのは彼ではなくて紛れもなく私。
彼を見ないようにしていたなんて、嘘だった。私の頭の中にはいつも憧れの君しかいなかった。いつだって輝く君に焦がれていた。
幻覚の彼から散々言われた『つまらない』という本質だって、私自身が1番理解している。
私は君の愛しい後輩たちのようにあんなに無邪気に演技をしたことが、無い。私はあんなにも役にのめり込んだことは無い。私は何も出来ない私のために演技しかしていない。私は見に来てくれた客のために演技をしたことがない。
本当は分かってた。君の発したつまらないという言葉は、私が舞台に対して思っていた感情だ。
これしかない私も、周りも、全部が馬鹿らしくて、そしてなんてつまらないんだろうと。
そう、思っていたのだ。
泣きながら走って、走って、走って、気がつけば暗い自分の部屋のベットで抜け殻のように枕を濡らしてうつ伏せになっていた。
『貴方にしては、随分と理解するのに時間が掛かったんじゃありません？』
枕元で彼が囁く。
『もしかして、泣いてます？……なら、来なければよかったのに。』
『こんな公演1つで心が揺らいでしまうのなら、気づかない方が幸せでしたよ』
まぁそうしたら、本当に貴方はつまらない人間になっちゃいますけど。そう呑気に言う彼はうつ伏せの私の目の前でしゃがみながら浮遊している。
『……貴方がつまらないというのは、とっくに周囲も気づいてます』
｢…なら、こうなる前に言ってくれればよかったじゃない。｣
君はそのままでも魅力的だと。
文句でもある？前のように睨んでぎゅっと枕カバーを握れば、今回は反応してくれた。彼からこぼれた言葉が、私の耳に落ちる。
『……綺麗な蝶じゃない蛾で産まれてしまっても、美しく舞うことは出来るんですよ。だから、もう一度、さなぎに戻ってみたらいい。そしたら、きっと分かるから』
彼の顔が、開けっ放しの窓の風で揺れる髪のに阻まれて見えない。
｢…それ、どういう｣
意味？
私が意味を尋ねる前に、君は目の前から消えていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 209人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「あんスタ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
そると(プロフ) - すごく面白かったです。更新されることがあったら楽しみに読ませて頂きます！待ってます (2020年4月28日 19時) (
レス) id: 663d9c3cae (このIDを非表示/違反報告)
チョコトースト(プロフ) - ちよりさん» 作品自体楽しく読ませて頂いていたのでとても嬉しいです…返信と対応ありがとうございます!これからもちより先生の日々樹渉を楽しみに待ってます!長々と失礼しました… (2020年1月27日 23時) (レス) id: 9ac9e5b2c4 (このIDを非表示/違反報告)
ちより(プロフ) - チョコトーストさん» 念の為日々樹渉の言葉を全て違う言い回しにしてきました汗 不快にさせてしまったようなら申し訳ないです...！もしまだ何かございましたら詳しくは私のTwitterのDMに書かれても大丈夫です汗 (2020年1月25日 23時) (レス) id: 5d8f01d30c (このIDを非表示/違反報告)
ちより(プロフ) - 64さん» ありがとうございます〜！頑張ります！ (2020年1月25日 23時) (レス) id: 5d8f01d30c (このIDを非表示/違反報告)
チョコトースト(プロフ) - 面白かったです。ですがこれと似た台詞が使われている日々樹渉2次創作漫画を読んだことがあります。小説自体は凄く好みだっただけにもやもやしております。よろしければその漫画の存在をご承知かどうかだけでもお教え下さい。 (2020年1月22日 17時) (レス) id: 9ac9e5b2c4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ちより | 作成日時：2019年11月5日 20時
