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福良さんに呼び止められた。勢いよく返事をして振り返ると、思ったよりも福良さんが近くにいて思わず後ずさりしてしまった。
『な、何でしょう…?』
「これ、返すよ」
『あ…』
それは私が渡し逃げをしようとして失敗した記憶が蘇ってくる諭吉さん。もうすっかり忘れていたよ、君のこと。
『いえ、そういうわけには。どうぞもらってください』
「いやいや、そういうわけにもいかないよ」
えぇ、この感じじゃあどちらかが折れるまで続きそうな予感。しかし私はめげないぞ。だってこの諭吉さんであの恥ずかしい記憶が消しされるのならば安いものだもの。本当に記憶を消していただきたい。
「じゃあAさんのお店、教えて?今度食べに行くから」
『え』
そう来たか。この諭吉さん分を食べに行ってチャラにするつもりか。なるほど、さすが頭のいい方だ。しかしそれは無理なことであった。何故なら、私はちょうど今日、店をクビになったのだから。だけど、
「ちょっと、何で逃げるの」
そんなことは口が裂けても言えず、ここで逃げてしまおうとしたのだが、盛大に転んだ前科があるように、私は体育がダメダメで。しかも相手は男性。当然すぐ捕まってしまったのだ。
「そんなに言いたくない?」
違う、違うんだ。言いたくないんじゃなくて、言えないんだ。でも逃げるのが失敗に終わった今、もう本当のことを言うしか選択肢は残っていなかった。あぁ、こんなことになるなら切腹した方がよっぽど良かったかもしれない。
「…じゃあとりあえずお金は返すね」
『えっ!?』
これは確定事項だから、と男性の力強さにあっさりと負けてしまった。おかえり、諭吉さん…。じゃあもうこれで話は終わりだろう、とゆっくりと帰ろうとしたが、しっかりと腕は掴まれていてそれは不可能だった。
「Aさんにウチ専属の料理人になってほしいんだけど」
『…え?』
「ね、伊沢もいいでしょー?」
固まっている私をよそに大声で伊沢さんに向かって叫ぶ福良さん。いやいや、私に選択権は?ひょこっと奥の方からグーサインが出てきて、満足気な表情で私を見る福良さん。いや、だから、私に選択権は?(2回目)
「悪い話じゃないと思うけど」
『え、えっとですね…』
なぜ私は今スカウトたるものをされているのだろうか。だ、だって、一応料理人ですよ。クビになったことは言っていないはずなのに、なぜ?あっ、ヘッドハンティングか!なるほど!私の能力を買ってくれたんですね!
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ちゃるちゃる(プロフ) - いろさん» ありがとうございます〜!これからも温かい目で見ていただけると嬉しいです! (2020年2月22日 16時) (レス) id: d523c3bebb (このIDを非表示/違反報告)
いろ(プロフ) - 続編おめでとうございます!楽しみにしてますっ (2020年2月21日 6時) (レス) id: 5fbef9d1c0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ちゃるちゃる | 作者ホームページ:
作成日時:2020年2月20日 17時