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「…俺、明日早いって言ったじゃん」
「駿貴の家に泊まりたいの」
我儘なのは分かってる。でも私の事好きなんでしょ。好きな人のお願い、聞いてくれるよね。今日は忘れさせてほしいの。
──なんて、私も酷い女だな。そっちが先に名前で呼んできたのをいいことに私も駿貴と呼ぶと分かりやすく目が泳いだ。
「分かった」
はぁ、と1つため息をついて言った。そしておもむろに立ち上がった彼に続いて私も立った。
自分が好きになったのはこんな女じゃないと、好きだと言ってしまったことを後悔しているため息だったのか。
今となっては怖くて聞けない私はひたすらに先を歩く彼についていった。
言葉を交わさぬまま個室の居酒屋を出て夜道を歩く。時間はもうすぐ11時になるところ。
手を繋ぐなんてこともせずにただただ歩く。行き先も分からないし今どこの道を通っているのかも知らない場所。
「A」
須貝が沈黙を破ったのと同時に立ち止まる。私が無茶なことを言ってしまってから初めて目が合った。
「俺は本気でお前のことが好きだよ。付き合ってほしい」
「…私だって、ずっと前から須貝のこと好きだったよ。もちろん今も。だから出来ることなら須貝の彼女になりたい」
真剣な眼差しで告げられて彼の本気度が伝わってきた。私も本当に好きだけど、あんなことを言ってしまったせいで何を言っても薄っぺらく聞こえてしまう。
「今日、泊まっていいよ」
「え…?」
「でも手は出さないから。マジで明日早いし、何より…することで励ますなんて俺が嫌」
やっぱり彼は優しい。こういうところに惹かれたんだ。私の意思を尊重しつつ、逸れてしまった道から戻してくれる、ヒーローだ。
「じゃ、今日から改めてよろしく。A」
「…うん、ありがとう」
私の大好きな笑顔で家に入れてくれた。一人でいたくなかった夜も、彼のことも、全部手に入れることが出来て私は怖いもの無しだと思う。
今までずっと友達で居続けた私たちは絶対に外でしか会わなかった。多分互いに、その場の流れに飲み込まれるとか嫌だったからだと思う。
だから今彼の家に居ることが新鮮でとても嬉しい。あぁ、彼女になれたんだって身に染みて感じている。
「…あれ、何これ」
「あっ、それは、!」
慌てて隠そうとする須貝…じゃなかった、駿貴を躱して取り上げると同じメーカーの同じボールペンがいくつもあった。
「…捨てられない人なの、俺。」
恥ずかしそうに言う彼に勢いよく抱きついた。
ありがとう、なんでか分かんないけど元気出たよ。そう口にはせずにキスをした。
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緋歌梨(プロフ) - ちゃるちゃるさん» いえいえ! (2020年12月30日 22時) (レス) id: ef32365840 (このIDを非表示/違反報告)
ちゃるちゃる(プロフ) - 緋歌梨さん» そうなんですね!知らなかったです。教えて下さりありがとうございます! (2020年12月30日 22時) (レス) id: 6736db345f (このIDを非表示/違反報告)
緋歌梨(プロフ) - コメント失礼します!みかんの白い筋は、アルベドって言うんですよ!ラテン語で“白さ”という意味です!このコメントはスルーしていただいても構いません。お節介ですいません… (2020年12月29日 20時) (レス) id: ef32365840 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ちゃるちゃる | 作者ホームページ:
作成日時:2020年11月9日 17時