インクの切れたボールペン【Q|K】

サンタは隣に既にいた-ymmt ページ27

マフラーの話の続き


「さぶい…」

外に出た途端に寒すぎて痛くなる耳。そろそろ防寒具も最終形態にせねばいけないかなと思い始める。少し前から使い始めてるスヌードの形を整えて私は歩き出した。

「おはよ、Aちゃん」
「おはよう山本くん」

ちょうど下で一緒になった山本くんに真っ先に声を掛けられるのも、あざといマフラー姿ももう慣れたもの。
彼からマフラーを着けてきてよと言われた次の日から首元を暖かくするようになった。

…が、家の箪笥を漁ると出てきたマフラーには虫に食われた跡があって使えず、代わりに身につけたのがスヌードだった。

「Aちゃん髪ボサボサー」
「…さらにボサボサにしないでくれないかな？」

スヌードとマフラーの違いはずばり、巻く形状か輪っかで被る形状かの違いである。
すぽんと勢いよく取ると冬の天敵である静電気によって髪が乱れる。それを笑いながら手を伸ばしてさらに彼は掻き乱してくる。

「マフラーにすればいいのに」
「だからぁ、家を片付けてないから見つからないの」

穴があいてて使えないなんて言えるわけもなく、苦しい言い訳で今日まで逃げてきた。このままずっと逃げられるとは思っていないが、「ふーん」とだけ言って私の元からいなくなった後ろ姿を見つめれば、今日は何とかなったのだとほっとした。



*


社会人にもなれば平日はただの平日。クリスマスとかいうイベントがあるにしたって変わらず仕事というのはやらねばならない。

「イブなので今日はピザでーす！」

おぉ〜という声とともに拍手がちらほら。大きなツリーもサンタコスも何も無いし、なんならピザって結構な頻度でデリバリーをしている気もするが、多少の浮かれはホワイトな企業だし良いじゃないか。
すこ〜しだけ、クリスマス気分ってやつ？

「美味しいね」
「うん、美味しいね」

たまたま隣になった山本くんと喋りながら食べる。

…あれ、よーく見たら小物としてクリスマスグッズが飾られているじゃん。誰が置いたんだろう。可愛い。


「じゃ、お疲れさまでした！」

気づけば安定のクイズが始まり盛り上がり、みんなそれぞれの予定もあるので日付が変わる前に帰ることに。
しっかりとコートも羽織ってスヌードも身につけてまだ残る人達に挨拶をして出ようとすると山本くんの足音がした。


「待ってAちゃん！」


声をかけられる前に足音だけで分かってしまった。これって結構ヤバいんじゃない…？なんて気にしながら振り向くと山本くんの顔が目の前にあった。

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