インクの切れたボールペン【Q|K】

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ベランダに出て空を見上げながらスマホを耳に当てる。「もしもし？」すぐに切り替わって彼の低い声が聞こえた。「ハローこうちゃん」「どうしたの？」ガヤガヤと後ろの方で他の人の声が聞こえるから恐らくオフィスにでもいるんだろう。「ね、月見える？」「月？」一言呟いたあと足音が聞こえてやがてガラガラ、という音がした。「おー、半月だ。綺麗」「ふふ、綺麗だよね」一緒にいるわけではないけど同じものを見ているってだけで嬉しい。「早く会いたいよ」遠距離な私たち。満月は多分一緒に見れるよ。だから…「もう少しだけ、待ってて」/wtnb



鼻歌を歌いながら目を瞑っているとすぐ下からため息が聞こえた。「拳くん機嫌悪いの？」「誰かさんのせいでね」「えー誰だろう？」見ての通り私は面倒くさい彼女で何だかんだ言いながらも私に付き合ってくれてる拳くん。「あ、月！綺麗だよ！」「暴れないで。落とすよ？」「はい…」ふと見上げると明るい月が見えてつい興奮してしまった。「なんだか月が近く感じる」「まぁおぶってるからいつもよりは高い場所にいるし」そっかだからか。「それならずっと拳くんの背中にいよ」「やだよ絶対おろす」なんて言いながらも笑顔な拳くんが大好きだよ。/fkr



「美味そう」金曜日の昼、お淑やかにパンを広げていると匂いにつられたのか私の隣にやってきた社長。「クロワッサン？」「そうです」私はいつもお気に入りのパン屋に寄ってその日の気分で買っている。今日クロワッサンを買ったのは昨日の夜空に三日月があったからという安直な理由。「…ねぇ、」クロワッサンを食べようと封を開けた時、声がいつの間にか後ろからして振り向いた瞬間、伊沢さんの顔が近くにやってきた。「さんきゅ」驚いている間もなく伊沢さんはニヤリと笑って去って行った。残ったのは齧られたクロワッサンと真っ赤な私の顔。そういや昨日の三日月も雲で少し欠けていたな。/izw

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