🐟○意地と恥は捨て去って ページ13
○リクエスト ジャニの話
「眠いの？」
「ちょっとだけ」
後ろから私を包み込んで、ヨンホさんのカメラロールを眺めて、これはいつの時でという話を聞いていたところだった。
暖かくて広い胸板に包まれていると安心して眠くなってしまう。
心臓の音が背中越しにトクトクと響いて、柔らかい声が子守唄のように頭に響く。
「Aのも見せてよ」
「面白い写真ないよ？」
「いいよ、Aのこと知りたいだけだから」
「え〜変な写真入ってないかなあ」
ヨンホさんは会社の先輩で、昔の話はしたことがあるけれど、実際に写真で見るのは違う。
今だって綺麗なわけじゃないけど今よりもっと垢抜けてない幼い顔をした自分を見せるのは恥ずかしい。
カメラロールの一枚目の写真は、テーマパークにいる自分がまだ幼い顔で笑っている。
隣には学生時代に仲が良かった男女の友達が数人写っていた。
次の写真は同じように幼い顔で笑う男の子とのツーショットだった。
やばい、と思ったけど、ヨンホさんは普通の声で元彼？と聞いてきた。
友達だよと答えたけれど、本当は大学の時に付き合っていた。
でも価値観の相違がしんどくなって三ヶ月も満たないまま別れてしまった。
「何考えてるの」
「みんな元気にしてるのかなあって」
「最近会ってないの？」
「みんな忙しいんだって」
「社会人になるとそうだよね」
「うん、あ」
タイミングよくかかってきた電話の名前は” ドヨンオッパ ”と表示されていた。
ヨンホさんにも見えたはずなのに出ていいよと優しく笑った。それが少しだけ悔しい。
ドヨンオッパは親戚のお兄ちゃんで頻繁に連絡を取り合うような相手じゃないから別に急ぎの用じゃないとは思うけど、かけ直すことにした。
腕の中からするりと抜けだして、廊下に出る。
暖房の効いた部屋とは違って、廊下はひんやりとした空気で満たされている。
「もしもし、A？」
「何？」
「何ってなあ、俺はおばさんからAから連絡が来ないって聞いたから電話してるんだけど」
「忙しいだけだよ、心配しないで」
「心配するよ、昔はオッパと結婚するって言ってたのに」
「いつの話してるの？」
「冷たいなあ」
「もう、何？用がないなら切るよ」
「はあ、おばさんも心配してるみたいだから今度ちゃんと連絡しろよ」
「わかった、じゃあねオッパ」
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作者名：ロク | 作成日時：2022年12月25日 22時
