🐯君の心は風のように ページ1
MK side
Aが行きたいと言ったお店の予約をとって、休みを心待ちにして一週間。
たった７日、168時間が永遠のように長く感じた。
待ち合わせの時間から5分が過ぎて「お待たせ」とやってきたAは白いマフラーを巻いていて、
絶対に口には出せないけど素直に可愛いと思った。
なんでもない後輩たちには可愛いって簡単に言えるのに、
俺にとってAに可愛いと言うのは
どんなことより何よりも難題だ。
「A久しぶり、元気にしてた？」
「久しぶりって二週間前に会ったよね？」
「久しぶりだろ」
「そうだねえ、元気だったよ」
「適当すぎ」
「まあまあ、早く入ろ」
お店の一番人気はチョコレートケーキだけど、Aはチーズケーキが好きだ。
いつまでも悩むAに「両方食べればいいじゃん」と言えば、太っちゃうと頬を膨らませた。
上目遣いで「マーク、半分こしよ」と言うからそれに頷いた。
写真を数枚撮った後、チョコレートケーキを口に含んで美味しい〜と首をかしげて微笑んだ。
俺は、ずっと普通の顔をして普通にやりとりをしていたけれど、この間に何回も死にかけている。
「マークって好きな食べ物なに？」
「何その質問」
「いいじゃん、答えてよ」
「スイカ」
「はあ……」
「答えたじゃん」
「そういうのじゃなくて料理名が聞きたかった」
「じゃあそう言ってよ」
「わかってよ、私とマークの仲だし」
「何それ」
「なんだろうね」
笑って前かがみになったAの髪が料理につきそうになって髪に触れる。
気をつけろよと言うとごめんごめんと何の気もない言葉。
いつでもつやつやの長い髪は触れるとサラサラと溢れた。
長いほうが好きと言ったら、
じゃあ切ろうかなといたずらするような顔で返されたことがある。
やっと追いついたと思ったら簡単に俺の横をすり抜ける。
つかみどころのないところが追いかけたくなる理由。
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作者名：ロク | 作成日時：2022年12月25日 22時
