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7.飼い主は手綱を離してはいけない ページ48




 席を立って、真っ直ぐ入口まで歩く。明らかにそれっぽい曲がり角を曲がると、rest roomの文字が見えて、胸を撫で下ろした。

 すれ違うボーイ達は、監督生に軽く会釈して過ぎるのを待っている。そんな『彼』の性別を疑うものなど居ない。むしろ男子便所に入ろうものなら、全力で止められそうな勢いである。



 普段こんなことやったら、犯罪だ。これは、人の少ない此処だからこそ、出来る事。

 自分にそう言い聞かせながらも、やっぱり煌びやかな化粧室に自分が足を踏み入れるのは、どうしても抵抗があるもので。女子トイレ内には入らず、入口の曲がり角の所で、足を止めた。


 咳払いをする。
 監督生の声は決して低くない。少しばかり喉を締めれば、低い女声位には聞こえるはずである。


「…女性の化粧室にまでついてくるだなんて、無作法にも程あるのでは?」


 静かな空間によく響く声。それに反応して、角から男が一人。黒いスーツをキッチリと着こなしている。
 この人、さっきまで隣のテーブルに居た人だ。相手の女性とは殆ど喋らずに、思い返せば執拗に此方を見ていたような気もする。

 クルーウェルが何もなしにこんな所に『出張』と偽ってまで俺を連れ出す訳がない。絶対に何かあると思っていたが、まさかこんなに面倒臭そうな事柄に首を突っ込んでしまっただなんて。


 気迫に押されて、思わず後ずさると、片方の男性が紳士的に微笑んで、胸に手を当てる。黒いスーツの胸に当てた白い手袋が嫌に上品に見えてしまうのは、きっとジェイド先輩のせいだ。


「これは失礼。貴女を怖がらせるつもりはありません」
「女の園に入ろうとする男を前にして…怯むなという方が無理な話でしょう」

 喋り方までジェイド先輩に似ているだなんて。ぎりと強く睨むと、男は困ったように眉を寄せる。

「これでも僕は紳士なので、女性には真摯に対応したいと思っているんですけれども」
「…ッ!」

 急に距離を詰められ、手首を掴まれる。ヒッと声が漏れる。怖い、とそう思ってしまった。恐怖の写った瞳に男はにんまりと満足そうに笑う。

 手首を強く握られ、抓まれたような痛みに、監督生の顔がゆがむ。

「お利口に、して頂けますね?」
「…は、…は、い…」


 その圧に押され、思わずこくこくと頷いてしまう。長い髪に隠された顔はきっと真っ青だ。言葉を紡ぐ唇が震える。

 男が、安心したように一息ついたのが分かった。




「なんて、言うと思ったか。バーカ」


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副村(プロフ) - やまかさん» わー!ほんとだ!!!見返ししていなかったのが仇となりました…。お恥ずかしい限りです。申し訳ございません。ご指摘ありがとうございます。これからもご愛読いただける作品になりますよう努めてまいりますので、よろしくお願いいたします…! (2020年10月11日 2時) (レス) id: f5b1efd963 (このIDを非表示/違反報告)
やまか(プロフ) - いつも面白いお話をありがとうございます。これからも陰ながら応援させて頂きます。 (2020年10月11日 2時) (レス) id: 889b8b96c0 (このIDを非表示/違反報告)
やまか(プロフ) - はじめまして、いつも拝読させて頂いおります。1つ訂正して頂きたい箇所がありましてコメント致しました。クルーウェル先生の名前の事なのですが、『デイヴィス・クルーウェル』です。『デイヴィル』となっておりますので訂正して頂けると幸いです。 (2020年10月11日 2時) (レス) id: 889b8b96c0 (このIDを非表示/違反報告)
副村(プロフ) - 星猫さん» 知っているアニメ…!?副村(私)のでしょうか…?最近は殆どですが、数年前はアニメ観まくってましたー笑 (2020年9月30日 2時) (レス) id: 7af6887a6c (このIDを非表示/違反報告)
星猫 - 副村さん» 知ってるアニメは何ですか? (2020年9月29日 22時) (レス) id: dba8a79b51 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:副村 | 作成日時:2020年9月23日 22時

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