学園長の「愛娘」【ツイステ】

P−20◆絶対今じゃない！ ページ23

.


「──ッ、『首をはねろ(オフ・ウィズ・ユアヘッド)』！！」


ガチャン、という金属のぶつかる音がするのと、飛びついてきたグリムの勢いと重さに耐えきれず背中から地面に倒れたのと、どちらが先だっただろう。

背中や頭からじわじわと身体中に広がっていく痛みに声も出せないまま悶絶しながら、Aはそんな呑気なことを考えた。
第三者視点から冷静に己を見つめる心の中の自分が、変なタイミングで稼動してしまったらしい。


「痛ったぁ……」


グリムが乗っかったままでは起き上がるも何もあったものではないので、まず両腕を使ってグリムの体を抱き上げる。天井から下げられたシャンデリアの光と重なって、身体の輪郭が薄らと光って見えた。

やけに静かな入学式会場の中で、くりくりとした丸い瞳と目が合う。
ぱちぱち、お互いに数回瞬きしてから、グリムがその目をきらっと輝かせた。


「ふなっ！！ すっげー可愛い女の子なんだゾ！！」

「…………へっ？？」


──匂い？？ 普通に顔？？ それとも野生の勘とかいうヤツ？？

考え得る可能性にハテナマークを添えて、頭の中で並べてみてからようやくAは気付いた。

倒れた衝撃で式典服のフードが外れ、しまわれていた髪と共に誰もが口を揃えて(表現のばらつきはあれど)「すっげー可愛い女の子」と評するようなキラキラ美少女フェイスが何も遮るもの無くシャンデリアの元に晒されているということに。

これでも「まぁ男子校にいるし男なんだろうなあ」と思える人間は、多分女を見たことがない。


──絶対に今じゃない〜〜〜っ！！！！


鏡の間の外まで響き渡るような大声で叫びたいところを何とか我慢する。いよいよ異端者として迫害を受ける身になってしまうからだ。

じんわりゆっくりとした広がり方を望んでいたというのに、あろうことか新入生全員の注目する中でのお披露目となってしまった。
遅かれ早かれ噂される身になることは分かりきっていたし、別に隠す気もなかったとはいえ今じゃない。絶対、今じゃ、ない。みんな凄い見てるもんだってほら。


「えっ可愛い」
「何で女子……！？ 可愛い」
「眩しすぎて全然直視できないんだけど女子だよな？？」

「ソウ、デスネ……一応」

「うぉー会話しちゃったんだけど！！！ やべぇ！！」
「は、おまズルッ」

──何もやばくないし何もずるくないしこの人達状況受け止めるの早くない？


鏡の間中に時間差で爆発的に起こったざわめきに、極限まで居心地が悪くなったAは思わずグリムのお腹に顔を埋めて隠す。──わぁ〜ふわふわ〜(現実逃避)。

P−21◆もふもふ→←P−19◆突然のスポットライト

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す