P−11◆「始まる」 ページ14
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明日の晩には、黒い馬車がAを迎えに来てくれる手筈となっている。
オンボロ寮からそのまま向かいたい気持ちもあるが、そこは古き良きしきたりというやつなので特に逆らったりはしない。
──明日、かあ……。
なかなか実感が湧いてこない。きっと明日になって式が始まって、空気がびりっと引き締まった時ようやく、時間差で伴ってくるものなのだろう。あるいはベッドに入って、今日とは違うオンボロ寮の天井を見つめて初めて、「あぁ、始まったんだ……」なんて思うのかもしれない。
カチ、コチ、と音を立てて時を刻む掛け時計の秒針を数秒目で追いながら、Aは今度は昔のことに思いを馳せる。
眠れない時は、父親があらゆる手段を駆使して睡眠に誘おうとしてくれていた。結局無難に読み聞かせに落ち着いたけど。
そう言えば、本物の羊を連れてきて数えさせようとしたこともあった。父の目と声が本気だったので幼いながらに焦った覚えがある。
その時のことを夢に見ると決めて、Aは目を閉じて暗闇に浸った。
──それにしても本当に、この胸のざわつきは何なんだろう……?
────
高揚感で叫びだすなり何なりしかねない自分を必死に律しながら、Aは目をきらきら光らせて周りをぐるっと見回した。
暗い中に妖しく光るランタンや装飾品。
おしゃれなデザインの格子窓。
そして、自分と同じくこれからの学園生活に胸を躍らせているのであろう多くの同級生達。
実感は、思ったよりだいぶ早めに来た。
玄関の扉を開いた先に黒い馬車が待っていて、「始まる」ことを予感して──で、ぶわっと来た。
幸いにも式典服のフードのおかげで、即「えーー女子ーー!??!」などと叫ばれることは防げている。早かれ遅かれ周知されるにしても、Aが望んでいるのは、もっとこうじわじわとした広がり方だ。
新入生達はいくつかの列に分けて並べられていた。クロウリーの話によれば200人程いるらしい。なるほど、このざわつきや人混み感にも頷ける。
A達の並ぶ先に立っている、一際目を引くオーラのようなものを放っている5人は寮長達と見て間違い無いだろう。
しかしAはここで「あれ?」と首を傾げた。
ナイトレイブンカレッジには、グレートセブンに因んだ7つの寮がある。従って寮長も7人……の筈だが。こんな大切な式典の日に限って遅刻でもしたのだろうか。
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ヒメアミ(プロフ) - もちうさぎさん» お話が進んだりユニーク魔法とかがお披露目になったりすると多分速攻でバレる(?)と思うんですけど、一応某塔の上のプリンセスを元ネタにしてます……!😌 (2023年4月9日 14時) (レス) id: 773d896b8c (このIDを非表示/違反報告)
もちうさぎ - 夢主ちゃんのモデルって誰ですか! (2023年4月9日 5時) (レス) id: c2ca67a91e (このIDを非表示/違反報告)
ヒメアミ(プロフ) - ゆあさん» マジですか何よりでございますわ!!🥰彼にはただのマブで終わらず頑張ってほしいですね(誰目線?) (2023年4月7日 17時) (レス) id: 773d896b8c (このIDを非表示/違反報告)
ゆあ(プロフ) - もう今回も最高でございましたわ!エースと仲良くなっちゃって!そのままくっつけー!!という願望 (2023年4月6日 22時) (レス) @page20 id: ce509c1850 (このIDを非表示/違反報告)
ヒメアミ(プロフ) - ゆあさん» コメントありがとうございます!! 続け方には気を付けてるのでそう言っていただけて何よりです〜〜😭 頑張ります!!💪🏻 (2023年4月4日 12時) (レス) id: 773d896b8c (このIDを非表示/違反報告)
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