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「今は彼女はいいかなあ」「おれはアイドル一筋!」
むらたくさんの真面目な回答とお兄ちゃんらしい回答が重なる。正反対な2人が面白くて笑ってしたう。伊沢さんだけはまだ何も言ってなかった。彼が口を開くのを今か今かと待っていると、重々しく合わせられた唇を離した。
「俺、大学に入って彼女は居たけど、色々あって別れちゃってさ...向こうは俺のこと大事にしてくれてて、俺も俺なりに大事にしてたのに、向こうには伝わってなくて。俺はこういうことになるとべらぼうに不器用なんだなって痛感させられたね」
その時の情景を思い出しているのか、少しだけ悲しげに苦笑をもらす。それまでも絵になっている、というのは場違いかもしれないけど、そういう表現が似合うくらい、伊沢さんに憂いのある表情は似合っていた。
「それから好きな人は出来ても怖くて進めねーの。いつまで子供だってんね。知識だけが増えていって、心はまだ、これっぽっちも成長できてない。...重々しくなっちゃった、ごめんね!だから俺、今気になっている人はいるけど、俺とだったら幸せにしてやれないかなって思っちゃうんだよね」
痛々しく笑う伊沢さんに、私は何と声をかけるべきなのか。考えるよりも先に声が出た。
「伊沢さんは、私から見たら大人っぽくてリードしてくれそうに見えるのに、垣間見える子供らしさとのギャップが凄い素敵だし、包容力凄まじいし、なんと言っても我らの編集長です!気になってる人だって伊沢さんのこといっぱい話したらいっぱい聞いてくれます知ってくれます!絶対!だから大丈夫です!」
ふれっふれっと手を動かす。それに合わせてお兄ちゃんとむらたくさんも一緒に盛り上げてくれる。そんな私たちを見て、今さっきとは打って変わって、顔に喜色が現れる。やっぱり伊沢さんは笑顔がいちばん素敵だな、なんて思っていると頼んだ料理が運ばれてくる。頂きます、と手を合わせて出来たてのそれを一斉に口に運ぶ。その瞬間、みんなの目が合って、言わんとしてることを理解出来た。誰からでもなく、声に出して笑う。
「あーおいしかった!またこようぜー」
ありがたく今日はお兄ちゃんに奢っていただいて、ご馳走様でした!と店員さんとお兄ちゃんに言う。
そうだ、と伊沢さんがこっちを振り返る。
「まずはAちゃんに、俺の話いっぱい聞いて欲しいな」
私でよければ!と笑って隣に行く。顔を見合わせたお兄ちゃんとむらたくさんが、私の視界の隅に映った気がした。
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かすがわ(プロフ) - 楽しく小説読ませていただいてます! 少し気になっしまったので、言わせていただくのですが、福良さんは河村さんのこと確か「河村」呼びだった気がします…! (2019年9月19日 23時) (レス) id: 13a71039dd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おとわ | 作成日時:2019年9月5日 0時