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「Aは人間だよ、大丈夫」
優しく笑う玄弥の一言に、ふわりと身体が軽くなった気がした。
実弥さんも、玄弥もまるで魔法が使えるのではないかと疑いたくなるほどに俺の心を見透かす。
たった一言で救われる。
「A?」
急に立ち上がった俺を不思議そうに見る玄弥の前に立つ。
頬に手を添えて額に唇を寄せた。
きょとんとした顔をした玄弥は、見る見るうちに顔を真っ赤にして立ち上がる。
「え…っ!?」
「ふふ、ありがと玄弥。だいすき」
驚きと羞恥の表情を浮かべた玄弥にひらひらと手を振って、宿に戻る。
あんなに顔が赤くなる人、初めて見た。
先程の玄弥を思い出すと、緩む口元を手で押さえながら早足で歩を進める。
にしても鬼喰いか。
鬼を食べて短時間の鬼化なんて特異体質、俺以上だ。
鬼殺隊の中でも異質だろう。
彼は呼吸を扱う素質がないことに劣等感を抱いていた。恐らくこれがきっかけ。
玄弥がたどり着いた“鬼を倒すために、鬼の力を使う”のは、実弥さんに近づく為に必死だったのだと思う。
人は追い詰められる程、突飛な発想をするとはよくいうが、とんでもない発想を実行したなと驚いた。
ともあれ、鬼殺隊が鬼化。ましてや自分の弟が鬼化なんてこと実弥さんが絶対に許すはずがない。
口が裂けても俺の口からは言えない。
「Aー!」
宿が見えてきたところで、竈門くんが俺の名前を叫びながら大きく手を振っていた。
息を切らしながら駆け寄ってくる彼に首を傾げる。
「部屋に居なかったからびっくりした!」
「ちょっと散歩に行ってただけ」
「そっか、良かった」
彼は安心して胸を撫で下ろす。
玄弥と話し込んでしまい、随分と時間が経っていた。
「A、お腹減ったかなって思っておにぎり貰ってきたんだ」
「大丈夫、いらない」
「でも何も食べてないよね」
「いらない」
あまりにもしつこいので、にこりと微笑んでぴしゃりと言うと、竈門くんは少し寂しそうな顔をしていた。
そんな彼を気に止めることなく部屋へと足を進める。
無味な異物が喉に入り込むような、嫌な感覚は必要最低限でいい。
恐らく冷えたままの身体を温めるために、お茶を口にする。
火傷をしない温度なのかは分からないが、そんな熱々を持って来たりはしないだろうから大丈夫だ。
このガラクタな身体が動かなくなるまでは、必死に生きていよう。
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朝ギ(プロフ) - ゆきねこさん» コメントありがとうございます!更新遅くなってしまい大変申し訳ないです…これからも楽しく読んでいただけると嬉しいです! (7月13日 23時) (レス) id: 6f172a3ee3 (このIDを非表示/違反報告)
ゆきねこ - ふぁっ面白すぎて一気読みしました!更新待ってます! (2023年4月14日 9時) (レス) @page16 id: 0a7ce356e9 (このIDを非表示/違反報告)
朝ギ(プロフ) - ナハハさん» コメントありがとうございます!なかなか錆兎との絡みが少なく試行錯誤していますが、楽しんで読んでいただければ嬉しいです! (2022年12月7日 21時) (レス) id: 46cbb9d739 (このIDを非表示/違反報告)
朝ギ(プロフ) - あいせさん» コメントの有難いお言葉ありがとうございます!更新頑張っていきます! (2022年12月7日 21時) (レス) id: 46cbb9d739 (このIDを非表示/違反報告)
ナハハ(プロフ) - 私の推し(錆兎)の小説が少なかったのでこんなにも面白いお話に巡り会えてとても嬉しいです!応援してます! (2022年12月7日 11時) (レス) @page9 id: b3d00b40ee (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:朝ギ | 作成日時:2022年6月14日 22時