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「………A…?」
名前を呼ばれて、閉じていた瞼をゆっくりと開ける。
ぼんやりとする視界に、大好きな人の姿が映っていた。
「………実弥さん…」
「えっ、いや…その、」
「ちがった、間違えてごめんね玄弥」
俺の言葉に挙動不審になる姿に、はっとした。
慌てて訂正して、にっこりと笑みを浮かべる。
実弥さんが居るわけないのに、ちょっとうたた寝したせいで勘違いをしてしまった。
「こんなとこで何してんだ?風邪引いたら…っ、」
そっと俺の手に触れた玄弥は、慌てて自身の羽織を差し出してきた。
ここの浴衣を着ているのなら、自身も湯上りだろうに。
「大丈夫、羽織ってないと玄弥が風邪引く」
「手が冷てェだろ」
玄弥に言われて、自分の手が冷たくなっているのだと気付いた。
ということは、俺が想像していたよりも今夜は冷える様だ。
「ありがと、優しいね」
「Aも来てたんだな」
「うん、玄弥にまた会えて良かった」
「兄ちゃん…元気?」
玄弥は俺の横に腰掛けて、困った様に笑いながら尋ねてくる。
今の俺は実弥さん関連の質問をされても、答える事が全く出来ない。
「分かんない」
「え?」
「俺、実弥さんに嫌われちゃったんだよね。今は宇髄さん所でお世話になってるから、実弥さんとは随分会ってない」
「何で…?」
玄弥はとても驚いた様子だった。
何から話したらいいか迷ってしまう。それに改めて口にすると惨めで寂しくて、悲しくなる。
「実弥さんの事が何より1番大切だったんだけど、あの人は自分に縛られる俺が嫌だったみたい。嫌われたんだよね」
「兄ちゃんはそんなことでAの事、嫌わねェと思うけど…」
「俺は実弥さんさえ居れば、全人類皆どうなってもいい。実弥さんさえ居てくれたらそれでいい。そう伝えたら拒絶された」
「それはちょっと…」
明らかに玄弥は引いている。
当たり前だ、自分の兄に対してこんな感情を持たれていたら驚くよりも引くだろう。
でも俺の気持ちはずっと変わっていない。
実弥さんさえ居てくれたら後のことなんてどうでもよくて、誰が死のうが、そんなこと知ったこっちゃないって思っている。
「極端だよな、Aは」
そう言って玄弥は、実弥さんに似た顔で困った様に笑う。
きっと実弥さんは俺がそんなことを言っている限り、許してはくれないだろう。
「俺はAが羨ましかった」
その言葉に、伏せていた顔を上げる。
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朝ギ(プロフ) - ゆきねこさん» コメントありがとうございます!更新遅くなってしまい大変申し訳ないです…これからも楽しく読んでいただけると嬉しいです! (7月13日 23時) (レス) id: 6f172a3ee3 (このIDを非表示/違反報告)
ゆきねこ - ふぁっ面白すぎて一気読みしました!更新待ってます! (2023年4月14日 9時) (レス) @page16 id: 0a7ce356e9 (このIDを非表示/違反報告)
朝ギ(プロフ) - ナハハさん» コメントありがとうございます!なかなか錆兎との絡みが少なく試行錯誤していますが、楽しんで読んでいただければ嬉しいです! (2022年12月7日 21時) (レス) id: 46cbb9d739 (このIDを非表示/違反報告)
朝ギ(プロフ) - あいせさん» コメントの有難いお言葉ありがとうございます!更新頑張っていきます! (2022年12月7日 21時) (レス) id: 46cbb9d739 (このIDを非表示/違反報告)
ナハハ(プロフ) - 私の推し(錆兎)の小説が少なかったのでこんなにも面白いお話に巡り会えてとても嬉しいです!応援してます! (2022年12月7日 11時) (レス) @page9 id: b3d00b40ee (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:朝ギ | 作成日時:2022年6月14日 22時