大好きな先輩の隣<セピア> ページ11
今日は先輩方の卒業式。
それと、もう一つ…私が片思いを卒業する日。
『好きです』ってちゃんと伝えられるかな。
時が進むにつれて募っていく不安を胸の奥底に隠して制服の赤色のネクタイをキュッと結び直した。
*
セピア先輩との出会いは、少女漫画でありそうな一コマに過ぎなかった。
担任の先生の号令でHRが終わった後。生徒は部活やバイトに向かう中、その日は私が日直で、先生に頼まれた数多い雑用に終わらせている時だった。
「ほんと、あの先生、人の扱いが酷い」
ぶつぶつと小声で愚痴を零しながら、クラスメイト分の数学のノートを落ちないようにと慎重に運ぶ。
よりによって、どうして私が日直の時に提出なんだろう…なんて考えてみても『偶然』以外の言葉は見つかりそうになかった。
ゆっくりと階段を降りながら目的地の職員室へと進む。1クラスの人数がそこまで多くないのが唯一の救いだったのだが、この状態で長い廊下を歩いているせいか腕はぷるぷると震え始めていた。
すると、
「大丈夫？」
低く優しい声が私に話し掛けた。
「そのノート、職員室に運んでるなら俺も一緒に持っていくよ」
「え、ぁ、ありがとうございます」
その声の主は、青いネクタイを付けた一つ上の先輩で黒縁眼鏡を掛けたふにゃりと微笑む好青年、という印象だった。如何にも、優等生って感じ。
そんな先輩はノートの山から半分以上を取り上げると私の隣に並んで話を続けた。
「君は一年生だよね。もしかして担任って池田先生だったりする？」
「そうです！…何で分かったんですか？」
「俺も一年の時の担任でさ、雑用とかよく押し付けられてた。人遣いの荒さは今も健在か」
あはは、と先輩は笑みを浮かべる。ふふっ、と釣られて私も笑う。それから先輩は担任の意外な弱点や過去にあった面白い話を聞かせてくれた。今度話題振ってみよう、私の中で楽しみが一つ増えた。
職員室に着くとドアを開けて私を先に通してくれる。ちょっとした気遣いも先輩はナチュラルにこなしていた。絡んでくる先生達にも笑顔で対応していて、まるで人気者のようだった。
「本当にありがとうございました。ノート重かったので助かりました！」
「どう致しまして。お疲れ様」
「えっと、あの、私Aって言うんですけど、先輩の名前は？」
「俺はセピア。Aちゃん、宜しくね」
「宜しくお願いします！」
日直で良かった、気づいた頃には今日のことをそう考えるようになっていた。
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