さくらのしあわせ<あろまほっと> ページ1
騒がしい教室で、私は窓を見やる。
桜は咲いていない。こんないい日なのに、と一週間前に見た桜前線の図を思い出した。
南の方ではもう咲いているのかな。
私は、桜が好きだ。
一度だけ、親戚がこの位の季節に南の方に引っ越ししたとき、私も手伝いでついて行ったことがある。
空港からのバスの途中で見た、桜が何十本も並ぶ鮮やかな景色。
私はその景色に、目を奪われていた。
親戚の引っ越し先の家の前にも、小さい桜の木が数本あって、私はただそれを見つめていた。
でも、少しして大きな風が吹いて、その桜は散ってしまった。あと少ししかない桜の花を見て、なんだか悲しい気持ちにもなっていったけれど、散った桜の花びらを見て、私はなんだか美しいと感じた。
何が美しいって、散り方が美しい。その花びらは、ときに激しく、そしてあるときは静かに、上品に舞い落ちていく。
この舞が、人間の喜怒哀楽のように思えてきて、愛しくも感じる。
あれ以来、桜の花はこの季節には見ていない。
けれど、私にはもう一つ、桜のような存在がある。
愛しい、綺麗だ、を遥かに超えた感情を持つもの。
「卒業、だな」
いま、私の目の前で笑う彼。
一緒にいるだけで、幸せになれる彼。
『…そうだね。大学違うから、会えないね』
アロマの香りが鼻腔をついた。
彼からはアロマの優しい匂いがする。だから、私はあろまくん、って呼んでいる。
私と彼は、行く大学が違うから、いまのうちにあろまくんと話している。
沢山話して、後悔しないように。
でも、いくら話したって、なんでか物足りない。
「会えばいいじゃん。また連絡取り合ってさ。」
『大学のときに会ったら、高校の時のあろまくんと話せなくなっちゃう』
少し真面目そうな外観の彼だけれど、皆には毒舌だって言われたりする。
でも、案外優しいところもあるんだ。
大学に入ったら、その彼の全部が壊れるかもしれない。
『だって、大学入ったら、あろまくんにも新しい友達も増えるし、忙しくだってなる
知らない間に、変わってるかも』
私がそう言うと、あろまくんはそうかもな、と微笑を零した。
「でも、だったらAも変わってんじゃねーの」
『そうだね。私も、変わってるかもしれない。』
社会人として、スーツを着て会社に行く私達の姿を思い浮かべると、思わず吹き出してしまった。
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