三冊目「舞い散る桜の見え方」 ページ4
陽光の中春風と可憐に戯れる桜の花びらの、ひとかけらが、そっと掌の中に舞い降りるのを静かに見届け、空を見上げる。
今日は、先輩たちの旅立ちの日、卒業式だった。中2である俺ももちろんそれに出席し、先輩たちの晴れの日を見届け、そして今はその帰り道。ずっと座り続けたために疲労がたまっている。
この小道に入ってしまうと、校門から駆け出して行った同級生や後輩の足音も聞こえず、ただ鳥たちが無邪気に合唱する音が響いている。
(先輩たち、泣いてたな)
卒業生退場のとき、入場から数えてかれこれ3時間弱ぶりに間近で見た先輩たちの表情は、涙に濡れていたり、まっすぐに、それこそ振り返らまいと、前を見据えていたりと、実に様々だった。
どうも現実的、というか、冷めたところがあると他人に言われる俺には、泣く理由が分からなかった。小学校の時も、ようやく春休みが来る、とぐらいにしか思えなかった。
でも。
『あーちゃんも、もうすぐ3年生でしょう?』
そう言って笑う姉のような少女の姿がふと、道の先に見えた気がした。そんなはずはない。彼女は今、最後の授業を受けている。
(お姉ちゃん、あんなに大人びてたっけか)
退場の瞬間、すれ違った一瞬が、俺の中でコマ送りで再生される。少しうるんで、でも決してそれを流すことなく、前を見つめる瞳に宿っていた光は、俺が知らない強さがあった。
1年前の、この日は、彼女と一緒にこの道を通った。最上級生とか、受験生とか、正直よくわかんないね、と子供のようにいった彼女は、あんなにまっすぐに前を見据えていて、そんなので大丈夫なの?と笑った俺は、ふわふわとしたまま、彼女の二つの表情を舞い散る桜の奥に見ている。
一年前のあの日の彼女には、この桜はどんな風に見えていたのだろうか。
今の彼女は、この桜をどのように見るのだろうか。
(お姉ちゃん。俺も、正直最上級生とかわかんないよ)
まだふわふわしたまま、漠然とした心のまま、ふわりと舞う桜を見上げる俺には、まだ。きっと彼女もそうだったのだろうか。
1年前はあんなに幼かった彼女は、この1年ですっかり背も伸びた。つい最近まで同じ目線だった彼女を、今の俺は少し見上げなくてはいけないけれど。
これから先の1年を過ごしたら、また追いつけるのだろうか。
その時は、この桜はどんな風に見えるのだろうか。
ひらひらと舞い踊る桜が、ひときわ強い風に空に昇っていく。これから先の1年を思いながら、俺は走り出した。
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高空 - 夏蜜柑さん» ありがとうございます!少しずつの更新になりますが暖かく見守って頂ければ幸いです。 (2018年3月4日 14時) (レス) id: afb8e92214 (このIDを非表示/違反報告)
夏蜜柑(プロフ) - はじめまして!好きです!言葉の選び方がとっても綺麗でもう最高です…!更新楽しみにしてます!! (2018年2月26日 1時) (レス) id: ec14c5022d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:高空 | 作成日時:2018年2月25日 9時