【QK】透明色の感情を愛と呼ぼう【ymmt】

初めて目が合う、見慣れた彼ら ページ6

「えっ、良いんですか。」

私の提案に食い気味に答えたのは、集団の一番後ろに立ちながらも一番存在感を発揮していた須貝さんだった。普段の彼は動画に映るのままの性格をしていると噂で聞いたことがあるが、その表情や喋り方から見るにどうやらそれは本当らしい。

「大したものは出せませんが、是非。」

今すぐにでも彼らの腕を引っ張り椅子に座らせたい気持ちを抑えて、私は短く言葉を切った。格好つけてそう言ってしまったは良いものの、店の赤字も厭わずトリュフくらい仕入れておけば良かったなんて、密かに後悔してしまう。

「では、お言葉に甘えて。」

そう言うと伊沢さんは律儀にお辞儀をして、それからカウンターの少し奥にある八人用のボックス席に腰かけた。普段は殆ど使われることのない隅に置かれたあの席が、今日は輝きを放って見える。バーと言えばカウンターに座るイメージを持ちがちだが、大人数で喋るにはこの席は不向きである。そのため一応、と設置されているボックス席だったが、今日の日の為に用意されていたと言っても過言ではない。

「…全部美味しそう。」

メニューを見て真っ先に聞こえて来た河村さんの言葉に、私は生ハムを切りながら思わず表情を綻ばせた。薄暗い暖色の照明によって彼の顔には陰影が作られ、より一層美しさを醸し出している。この光景を見て、彼に神と言うあだ名を付けることに反対する人はきっといないだろう。

「こちら、チャームです。」

来客が増え徐々に活気づき出した店内で、私は六人分の生ハムが盛り付けられた大皿を彼らの卓へと差し出した。頭上から聞こえた私の声に、彼らの視線がメニューから一度に私に集まる。少し興奮は落ち着いて来たものの、やはりビジュアルの強さに思わず私は面を食らった。

「…チャーム？」

まだ無機質なテーブルの上に簡素な音を立ててそれを置くと、控えめに私を見上げたこうちゃんがそう呟いた。首の動きとともに、縮毛矯正をしているかのようなサラサラの黒髪が揺れる。

「居酒屋で言う、お通しみたいなものです。」

そう言って微笑むと、彼らは揃ってへえ、と興味深そうに頷いた。きっとバーにはあまり来ない人たちなんだろう。いつでも楽しそうな彼らには、こういう落ち着いた空間より賑やかな居酒屋が似合いそうだ。

それにしても、こういうところですら学びの一部分になっているのだろうか。私の言葉を少しでも知識として吸収してくれるのならば、これほどファンとして嬉しいことはない。

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