【QK】透明色の感情を愛と呼ぼう【ymmt】

一歩進んでこれも日常 ページ21

それからと言うものの、私の日常はほんの少しだけ非日常に足を踏み入れた毎日に変わっていた。勿論そのイレギュラーを創り出しているのが彼らQuizKnockであることは言うまでもないだろう。彼らは私の予想以上にこの店に足を運び、そして間もないうちに常連と化していた。一人でカウンターに座る日もあれば複数人でボックス席に座る日もあり、最近では誰が来るのかこっそり予想するというファンには贅沢過ぎる遊びを楽しんでいる。

控えめに置かれた時計の針が十九時を迎えようとしていて、私は少しだけ胸を高鳴らせた。ここ数日で好きな時間ランキング第一位に急上昇した午後七時。今までは何とも思うことがなかったその時間が、今では光り輝くほど価値があるものに見えている。

さて、今日は誰か来るだろうか。昨日山本さんと須貝さんが来店した際、明日は遠方に出張に行くと言っていたから二人がここに足を運ぶことはないだろう。そして今日はサッカーの生中継が有るから伊沢さんは直帰するに違いない。となると、今日はこうちゃんあたりが来店しそうな予感がするな。

そんなことをぼんやりと考えていると、扉が私に朗報を知らせるように音を立てて動き出した。隙間から一筋の光が差し込み、廊下の蛍光灯がこの薄暗い店内を劈く。

「いらっしゃいませ。」
「Aさん、こんばんは。」

予想は半分的中、と言ったところだろうか。サラサラの黒髪が揺れるこうちゃんの後ろには、大穴であった福良さんが続いていた。私の挨拶に毎度ニコニコと笑顔で挨拶を返してくれるその姿が、彼の人柄の良さを滲み出している。

「こんばんは、」

こちらへどうぞ、と言葉を続けようとして、思わず私は言葉を飲み込んだ。徐々に輪郭をはっきりとさせたこうちゃんの様子が可笑しい。普段なら席に着くより前に何かを話し出すはずの彼が、今日は黙って俯いたままでカウンターへと一直線に歩みを進めている。体調が奮わないのだろうか。はたまた、何か落ち込むことでもあったのだろうか。陰影で顔色を伺えず、何一つ情報を得ることが出来ない。視線を再び福良さんへと戻すと、彼は私の聞きたいことを全て察しているかのように頷き、それから眉尻を下げて口を開いた。

「ごめんね、今日は長い夜になっちゃうかも。」
「え…っ？」

意味深なその言葉を私が聞き返すより先に、腰を下ろしたこうちゃんがその顔を上げた。真っ先に視界に飛び込んだのは、人生最大の不幸があったと言わんばかりの泣き腫らした瞳だった。

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