【QK】透明色の感情を愛と呼ぼう【ymmt】

顔も心も色彩を纏う ページ14

白木で作られたドレッサーの前で、鼻歌交じりに桃色のアイシャドウを乗せていく。すっかり浮かれ気分の私は、まるで花畑に住む少女かのようにキラキラとした乙女色で染められていた。普段はブラウンのパレットしか選ばないにもかかわらず、自然と手を伸ばしていた先にあったのは幸福を体現するような色彩で。まったく、分かりやすいにも程がある。

「素敵な店長さん、ねえ…。」

スマホに表示したままの彼のツイートを、もう一度読み返す。きっともう既に百回はこの二文をなぞっているだろう。難しい言葉が混じっていて理解に苦しんでいるわけではない。何なら、小学生でも分かるような簡単な言葉しか用いられていない。

詰まるところ、穴が空くほど見たこのグラスの写真と読み返した文章から、この素敵な店長という褒め言葉が私を指していることは明白なのである。

「…信じらんない。」

夢か、幻か。例えこの一連の流れがそういう類のものだったとしても、幸せ過ぎて満足出来てしまいそう。そう思っているにもかかわらず、わざとらしく抓った頬が痛くて、これが現実だと思い知らされた。

突然画面の向こうの人々が目の前に現れて、また来ますと言われ、推しに素敵だと褒められる。もうこれ、来世までの運を全て使い果たしたんじゃないか。

「…よし。」

丁寧にマスカラを塗り鏡を見ると、そこにはいつもより幾分元気な自分の顔が大きく映っていた。久しぶりに出番を迎えたハイライトやアイライナーが嬉しそうに役割を果たしている。こんな私を目にするのは、いつぶりだろう。学生時代は毎日ちゃんとやってたんだっけな。卒業したのはほんの数ヶ月前の話なのに、何だか遠い昔のように思えてしまう。

就活に失敗して人間関係は破綻して、人生負け組だなんて思ってたけれど、少しは良いことあるじゃん。

そもそもフリーターを全うしていなかったら、こうして彼らと巡り会うことだってなかったわけだし。そう考えたら、私はフリーターとして世に出ることが最高の運命だったのかも。

「酷い運命だな、それ。」

考えていることが馬鹿らしくて、私は真赤のリップを滑らしたばかりの唇に、思わずそう言葉を残した。そんなにポジティブな思考回路が出来ていたら、きっと今すぐにでも就職活動を始めているだろう。

けれどまあ、少しくらい寄り道したって良いよね。だって私、世間から見たら素敵な店長さんだもの。

視線を上げて立ち上がる。鏡の中の彼女が、心做しか楽しそうな顔をしていた。

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