Saffron【J】 ページ10
「へぇー？それで別れちゃったんだ」
「そうなの、もう本当にうんざり」
机の上に広げたノートに伏したまま、顔を上げないA。
別れたと聞いた相手は、彼女の口から何回も聞いた名前。
ずっとそばで見てきた俺としてはホッとしたような、苦しくなったような。
相反する感情がごちゃまぜになったまま、俺は彼女の愚痴に付き合わされている。
「ほら、そこ片付けろよ。ノート焦がすぞ」
「やった！潤のパエリア！」
俺の手料理で簡単に機嫌は直るのに、俺の気持ちはいつまでたっても伝わらなくて。
嬉しそうに笑って皿に取り分けようとするAの横顔を見つめる。
幼稚園から一緒だった俺に対して、こいつは恋愛感情というものを抱いたことがないらしくて。
月日が経っても変わるのはお互いの年齢だけで、俺らの関係性に変化はなし。
今日だって突然連絡を寄越したかと思えば、愚痴に付き合えって俺ん家に押しかけてくるし。
もう20年近く一緒にいるんだぞ？
「……いい加減気づけよ、」
「え？潤何か言った？」
本音が口から漏れていたことに気づいて一瞬慌てるけど、幸運なことにAには聞こえていなかったみたいで。
安心したのを気取られないように装って返事をする。
「いや、何も言ってねぇよ」
「そう？」
「ほら、手元見てないと火傷するぞ？」
これ以上追求されたくなくてそう促すけれど、Aは俺から視線を逸らさなくて。
そのままスプーンを手に取るもんだから、まぁ結果は目に見えてる。
「熱っ！」
「ったく…言っただろ、手元みろって」
「痛っ……もう最悪」
火傷したAは痛がりながら舌を突き出す。
その仕草と舌の赤さにドキリとして、思わず背を向けた。
「ほら、水」
「ごめんね」
手渡したグラスに入っていた水を飲み干してAがまた俺を見つめる。
「……んだよ？」
「ねぇ潤、私は何に気づけばいいの？」
そのセリフに一気に血の気が引く。
動揺して手から落ちたスプーンが大きな音を立てるのに目もくれず、俺とAは見つめ合う。
「なんだ、ちゃんと聞こえてたんじゃん」
「ついつい聞こえないふりをしちゃいました」
ごめんね、と話す口調は楽しそうなのにAの口元はきつく結ばれていて。
ああこれはもう、逃げられない。
「俺がお前のことを好きだってことだよ」
隠してきた想いを白状しながら俺は別のことを考える。
サフランの致死量ってどのくらいだっけ？
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紫苑(プロフ) - りえさん» リクエストありがとうございます。『ハラグロなふたり』の続きですね。鋭意創作中ですので今しばらくお待ちください！ (2021年1月4日 13時) (
レス) id: 217cb95def (このIDを非表示/違反報告)
紫苑(プロフ) - すずさん» コメントありがとうございます。赤菊の君の人気ぶりにびっくりしてました！喜んでいただけて嬉しいです。 (2021年1月4日 13時) (レス) id: 217cb95def (このIDを非表示/違反報告)
紫苑(プロフ) - ゆっこさん» リクエストありがとうございます。潤くん視点のお話書かせていただきました！ (2021年1月4日 13時) (レス) id: 217cb95def (このIDを非表示/違反報告)
紫苑(プロフ) - mihoさん» リクエストありがとうございます。Lapis lazuliの続きですね！承知しました。ただいま創作中ですのでしばしお待ちください！ (2021年1月4日 13時) (レス) id: 217cb95def (このIDを非表示/違反報告)
紫苑(プロフ) - るきさん» リクエストありがとうございます。『赤菊』の翔さんサイドを書かせていただきました！大野さんのお話はもうしばらくお待ちくださいね。 (2021年1月4日 12時) (レス) id: 217cb95def (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：紫苑
| 作成日時：2017年1月23日 20時
