あの日からIDOLになる 第一章

8.迫る ページ8

あれから、父となんでもない話をしてから、事務所で私服に着替えを済ませ、徒歩5分の所にある自宅に帰ってきた。



半日もなかったのに、なんだかとても疲れてしまった。
リビングのソファに寄りかかると、思わずため息が出た。

久しぶりに業界に関わった、というのもある。
だが、それよりも疲れたのは、このラビチャだろう。



八乙女 楽疲れているなら返信は明日でもいいからな。別に急いでいる訳でも、お前に嫌な思いをさせたい訳でもない。
八乙女 楽お前のことが知りたいだけだ



…………口説かれてるわけではないんだよね？

抱かれたい男Ｎｏ．1は、女の子に勘違いさせる発言をする男Ｎｏ．1でもあるらしい。
まあ、私はIDOLiSH7が好きなのであなたには揺らぎませんけど！！！


Aお気遣いありがとうございます。でも、大丈夫です。
Aなぜ辞めたか、でしたが、ただ疲れてしまっただけです
A自分に、才能がないことをわかっていながら、無理して笑っているのが疲れてしまったんです
八乙女 楽あの冴樹Aに才能がなかったら、俺にだって才能なんてないぞ。だってあんなに人気で、毎日見ない日なんてなかっただろ
Aそういう事じゃないんです。どんなに人気があっても、芸能界で生き残っていく才能が無ければ、ただ迷惑になるだけでしょう?



私には、才能がなかった。
どんなに作り笑顔が上手くても、大人になっても生き残れるような武器は私にはなかった。
それを目の当たりにして、苦しくなって、嫌になった。
ただ、それだけ。
自分の心が弱かったせいだ。



Aそれに、売れなくなってから辞めるのと、売れてるときに辞めるのじゃ、世間の印象とか事務所の影響とかも違うでしょ?
A八乙女事務所の跡継ぎなら、その選択がどれだけ収益の差を生むか知っているでしょ?
A私はただ、それを考えて辞めただけ



こんなの、あとから足した言い訳だ。
そんなのわかってる。
でも、こうでもしないと数年前の私には乗り切れないほど大きな波だった。


それから、八乙女さんからは、むりに思い出させてすまなかった。わかった。と返信が来た。

気を使わせたようで申し訳なく思いながらも、こんな風に、同情されなかったのも慰められなかったのも初めてだったのでちょっとスッキリした。



仕事を受けて良かったと初めて思えた瞬間だった。

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