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男は、そんなコチラの様子に気づいている様子はなかった。それどころか、機嫌でもよさそうに厚顔無恥な欲望を隠しもしない姿にすっと目が細まる。
今の私で、この男の心臓の音を止めるのなら。それはどんな凶器が最適なんだろうか。馬鹿げたことを、と周囲が私の思考を知ったら思うだろう。そして、嘲笑うのだろう。
ただし、それが私でなければ、の話だ。
(昔の勘を取り戻すのに、いい機会だ)
ここにいる彼らの唯一の不幸があるとするなら、それは誘拐された私が元殺し屋であったという事実だけだ。



人の殺し方にも色々ある。
力が強い奴は知識。頭がいい奴は力と技。両方とも強い奴は人間性を偽って籠絡する。その気になれば、言葉のみで廃人にすることだって可能だ。男には女を、女には男をあてがうために変装するのだ。
「ねぇ、おにーさん」
「あ?なんだ」
ついと唇に柔い笑みを浮かべて、海面に顔をつけて海底を覗き込んだように潤ませた瞳は恥じらいをもたせる。小さく足を庇うように引き摺りながら斜め45度の角度を持たせて首を傾ける。不自然なほど、何も知らない少女のような仮面を被る。男が、ごくりと唾を飲む音がした。呼吸が荒くなり、吐き出した息に色が滲む。
「ごめんなさい、お兄さんの足が早くて」
「あ、ぁあ、悪い、」
「ううん、大丈夫よ。でも私、歩けなくなっちゃったの」
おぶってくれない?もう足が疲れてしまって。
囁くような声音で、困ったように微笑んで。眉を下げた顔が薄命の灯火を掲げるお姫様のような印象を受けることを知っている。そうして、砂糖細工のような声を喉の筋肉を使って出して、柔らかく光が解けるように笑う。
男が、ふらりとコチラに近寄ってきた。獲物を前にした肉食獣のようだった。けれどそれが、演目であることに気がつかないような、そんな滑稽さを覚えるのは、「私」だけだと知っている。
「ねぇ、お願い」
優しい言葉で、甘い笑みで、蕩ける声で篭絡する。
ふーふーと下卑た吐息が近くに聞こえて、男が私を抱きしめる。どうしたのですか、と戸惑うふりをして縋りつくように首元を抱きしめ返す、ように錯覚させた。それにたまらない顔をした男が、首にかぶりつこうとした時だった。



「がっ」


嫌な音を立てて、男が崩れ落ちた。

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米の磨ぎ汁※低浮上(プロフ) - 面白い内容で惹き付けられました。ところでこの物語は名前固定なのでしょうか?名前固定では無いのなら名前変換が出来ません。 (2022年10月31日 19時) (レス) id: f1886f3e92 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:プロシオンの烙印 | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/6zp7JIEaL24NfiM  
作成日時:2022年10月5日 18時

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