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甘えるように、不自然なほど無邪気に。けれどそれを悟らせない愛らしさを使っていない声帯の筋肉まで使って引き出してころころ笑う。さすれば男は顔を赤くし目の中に不潔な願望を宿らせながらも先を歩き始めていた。

「大人しくしてりゃ痛い目見ないぜ」

なんて、言ってくれるくらいには上機嫌だ。それにしずしずと音を立てずに歩いていく。ふ、と後ろを振り向くと、絶望と喪失の二つを残したような顔の女たちがいた。
特に何もいうつもりはなかったのに、それを見たら口が動いていた。

(大丈夫だよ、必ず助けに来る)

ぽっかり空いた目を見開いた少女の顔を見ないで前に進む。男は勝手にペラペラと喋っているしすれ違う男はみんな屈強でヤニくさい男ばかり。皆、私にじっとりと焼け付くような欲を向けている。それか、哀れだというような目を楽しそうに歪ませて見ている。さすが、裏社会。性癖のおかしな奴らが多いらしい。

だがしかしこの男たちにとっても私にとっても、ここにおける一番の問題は、こんな状況にあるにも関わらず私が恐怖を感じていないことに尽きる。むしろ、今私の頭の中にあるのは当然の当惑と不自然な冷酷。その二つなのだから。理由はわかっている。けれど今まで羊水のぬるま湯で育てられてきた箱入り娘としての脳味噌が、理解することを躊躇している。
しかし、これは現実なのだ。この事実に対して目を向けなければ、何も思考は始まらない。別に『今の私』がそれをこなしたわけではないと目を逸らしたくなる気持ちもないわけではないが、違うのだ。
今まで感じていた違和感も。今まで感じていた周囲とのズレも。自分がどこか普通とは違うのではないかという不安も。全てその事実が関係しているのだから、目を逸らすことなどできるはずもない。気分が悪いか、と聞かれれば否だ。個人的にはかちりとピースがハマったような気分。ただ理解するには時間がかかり、咀嚼するには程遠い。だからちょっと待ってほしいという意味で、目を逸らしたい。そんなことをしている時間はないというのに。
けれどどんなに焦りを覚えても、「そうであった」という事実だけが、己の前に与えられている。

ーー私が、殺し屋であったという事実が。

第一章【部外者は舞台に上がる】→←3



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米の磨ぎ汁※低浮上(プロフ) - 面白い内容で惹き付けられました。ところでこの物語は名前固定なのでしょうか?名前固定では無いのなら名前変換が出来ません。 (2022年10月31日 19時) (レス) id: f1886f3e92 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:プロシオンの烙印 | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/6zp7JIEaL24NfiM  
作成日時:2022年10月5日 18時

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