検索窓
今日:10 hit、昨日:45 hit、合計:89,167 hit

触れる ページ8



驚きで呆けた口が塞がらない。ばっと彼の顔を覗きみれば、静かな瞳がそこにあった。唸り声も荒々しい雰囲気もない、秋の夜長のような静かさを向けられて。それが、天使が歩み寄ってくれているように思えるのは、私の気のせいなのだろうか。
「・・・・・・ありがとう、」
ようやく出した声は震えていた。自分でも信じられないほど、この天使に少しでも心を許されたのかもしれないと思うことが嬉しかった。きゅ、と細い手を握ると、何を思ったか握り返してくる。
重ねられた白くて大きな手はひんやりとしていて、陶器のようにまろくて繊細だった。節や骨格、大きさは男らしいのに、印象だけ見れば女性の手を思わせる。爪も滑らかで、どこかすべすべとした感覚があって、瞬間的にほうとため息をついてしまう。
天使はしばらくされるがままだったが、徐に私の手を取った。滑り込ませるように手を合わせると、私の手より一回りも大きいことが目立つ。指先が骨格のゴツゴツとした部分に触れるのに少し驚いてしまった。何故か危機感に襲われて。まるでこの手に、呑み込まれて戻ってこれなくなるのではないかという、そんな一種の恐ろしさ。
思わず手を離そうと力を込めるけれど、それを天使は許さなかった。びくりと震えた私の手を間髪入れずに指の股をなぞるように握り込む。こうしてみると、とてもしっかりとした握り方だった。力まかせに握りこむのではなくそっと包みこんでくるのに、少しもゆるぎがない。思いがけないほど確かで優しい感覚だ。どうして、自分が逃げなくてはいけないなんて思ったのかを忘れさせるくらいには、優しい手つきだった。
「天使、」
「ーーーーーー」
意図を測りかねて、おずおずと呼びかけると天使は何かを喋っているようだった。わからない。わからないけれどその調べはどこまでも穏やかで、そして心地良い。今までの不協和音とは違う、静かな夜の音。
「天使、あのさ。私」
ポツリと漏らした言葉に、天使は何も返さない。当たり前だ。だって彼には私の言葉がわからないんだから。それでも、口を開くことはやめなかった
「包帯を取り替えたいんだ。けど、今はそれも難しいのはわかってる。だから、慣れてきたらでいい。その時は翅に触らせてくれないかな」
その言葉に、天使は何も返さない。ただ、手に力がこもったように思えるのは、気のせいなんだろうか
「言葉が通じないのは、もどかしいね」
その声に、天使が喉を鳴らした。まるで私の言葉を肯定するかのようだった

思い出→←歩み寄り



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (352 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
812人がお気に入り
設定タグ:2j3j , kgm , ヤンデレ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

- この作品に一目惚れしました!!!更新頑張ってください!待ってます!! (6月11日 22時) (レス) id: b2a72ce1c2 (このIDを非表示/違反報告)
海月(プロフ) - コメント失礼します。少し前から拝読しているのですが、仕草や声の一つ一つに自然の意思が宿るような、人ならざる描写が美しく、惹きつけられました。今後二人がどのように交流していくのかが楽しみです。どうか作者様の無理の無い範囲で執筆頂ければ幸いです (4月22日 2時) (レス) @page24 id: 9675cfd2c8 (このIDを非表示/違反報告)
ある(プロフ) - 更新本当にありがとうございます!!ずっと楽しみにしておりました、作者様のペースで進めて頂けると幸いです! (4月21日 23時) (レス) @page24 id: 7187551de4 (このIDを非表示/違反報告)
ペペロンチーノ(25)(プロフ) - 更新待ってます! (2023年4月16日 15時) (レス) @page23 id: c1a1942ea9 (このIDを非表示/違反報告)
kukiwakame0318(プロフ) - 展開が気になり一気見してしまいました、更新楽しみにさせていただきます (2023年1月25日 12時) (レス) @page23 id: b21d4039aa (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:プロシオンの烙印 | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/6zp7JIEaL24NfiM  
作成日時:2022年10月3日 16時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。