愛欲は戦争、狂気は耽溺【kgm】【njsj】

全ての始まり ページ1

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天使を拾った。ひび割れた天使の輪と、ボロボロの羽と、煤けた神官服を纏った形式高い姿をしていた。ミルクチョコレートの髪の男の姿をした「それ」は、あろうことかゴミ捨て場に打ち捨てられていた。

愛欲は戦争、狂気は耽溺


「それ」を見つけたのは、ブラックだった職場にブチギレて辞表を叩きつけた帰りだった。元々気が長い方でもなく、キレると周りが見えなくなるタチであったから、いつかはこうなるだろうなと思っていたけれど。それはそれとしてよく持った方だと思う。金がないからと親から大学へは行かせてもらえず、高校卒業と同時に10年、ずっと働き続けていたのだから。
セクハラモラハラ前時代野郎がうじゃうじゃいる職場で10年も金を稼いで社会の歯車として回り続けた私、実は結構有能なのでは？なんて茶化してみるけれど、「明日から無職」という結果に変わりはない。重苦しいため息を吐きながらも、夏の青臭い空気に酔ったようなふわふわした足取りで私は家路を辿っていた。

家の前のゴミ捨て場、そこに天使が打ち捨てられていた。

しなやかで、しかし筋骨がしっかりしたガタイのいい男だった。街灯に照らされた豪奢な神官服。ボロボロで、けれど輝く輪っか。人が背負うには大きすぎる白の羽。魘されるように目を閉じたミルクチョコレートの髪の男が、ゴミ捨て場に倒れている
何かの映画の撮影でもしているのだろうかと、私は自分の視界を疑った。幻でも見ているのだろうか？
けれどそうだというには浅い呼吸。脂汗をかいた額。小さく痙攣している体には、どこにも異常はないはずなのに。恐る恐る近づいて、じっくりと観察する。ーー翅が傷ついているらしかった。弱々しく震える翅は、よく近づいて見れば赤く染まっている。白の神官服は背中から血が滲んでいるようで、おそらくだが翅と背の付け根あたりも傷ついているのかも知れなかった。ダラダラと背から血を流し、痙攣を繰り返すその姿は小鳥を思わせて憐憫を誘う
このままでは、息絶えてしまうだろう。誰にも手を差し伸べられないまま。この男の姿をしたなにかが倒れていることに気づいているのは私だけで、それを見て見ぬ振りをするということは、なんだか気分が悪い気がする。
……「それ」に肩を貸して部屋に運んだことに、特に麗しく芳しい理由を私は持ち合わせていない。ただ、家の前で死なれても目覚めが悪いというそれだけの理由で、私はゴミ捨て場の天使を拾った

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