【朔間凛月】again (ページ12)

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終わりの夜３ページ12

誰も動かなくなったこの場所で、唯一俺だけがまともに動けるはずだ。

だが、硬直して動けない。受け入れられないのかもしれない。目の前で起こった一瞬の出来事を。

無残にもあいた二つの穴。最後の一撃は致命傷で、Aの顔色はすごい速さで青白くなっていく。

この娘が大切なわけではない。それでも虚しくて、悲しくて、何故かずいぶんと前から消えたはずの涙が零れ落ちた。

「……ほ…………せき…」

彼女が延ばした手の先には、今も刺さっているナイフ。

何をするのかと、見守っていると、彼女はためらいもなくそのナイフを引っこ抜いた。
そしてもう一度自分にさす。

苦痛に歪んだ顔。とめるにとめることができなくて、どうすることも出来ない自分の手を彼女の頭にのせた。

Aは差したナイフをそのまま下へと思い切り引く。

引き裂かれた胸に、呆然としていると、Aは眉を顰めた。

「きもち……わる………い……かも」

引き裂かれたそこに、震えている腕を突っ込んだ。

鈍く、何かが千切れた音がする。

浅く呼吸を繰り返す彼女が手に持っていたのは、血まみれになっていても、光を失わずに輝き続けている宝石だった。

驚く俺に、Aはそれを握らせた。

「やくそく」

呆然としている俺に、笑ったA。

俺がようやく喉を振り絞って声を出そうとしたとき、完全に彼女のすべての動きが停止した。

朝に見せた悲しい顔を浮かべた理由を聞けばよかった。

意識を失う前に聞いた言葉の続きを知りたかった

もう全てが遅い。

暗闇の中、宝石の輝きだけが自分を照らしている。

窓から空を見上げた。

月は無い。

そのことにどこか安心している自分が居た。

こんなひどい顔を誰にも見られることはない。

温もりを失った右の手のひらに口づけをした。

「まもるよ、約束」

その言葉を最後に、俺は窓からこの屋敷を抜け出した。

美しい宝石を、右手に包み込みながら。