ミスティ ページ11
2時20分───携帯画面の数字がパッと変わった瞬間、後ろから駆けてくる足音が聞こえた。
梶「ごめん、待たせた？」
「いえそんなに。待ってる時間も楽しかったですよ」
梶「……さすが、流れるようなイケメン発言……。昼、食べに行こっか」
「はい」
梶さんに連れられてきたのは洒落たカフェ。落ち着いたウッド調のテーブルに、チョコレーティのバーチェアが並ぶカウンター、シルバーグレーの壁。真ん中には幹がねじれた大きな木が植えられている。
梶「何にする？」
「あー、ビーフシチューとカフェオレ、アイスで」
梶「りょうかい。ビーフシチューとオムライス。カフェオレとー、ピーチティーを。……はい、お願いします」
黒いエプロンをしたポニーテールのおねえさんが注文を受けとり、程なくして飲み物が運ばれてきた。それを飲みながらしばらく談笑をする。
梶「それで？何があったの」
「……何かって？」
梶「とぼける気？ まあそれでもいいけど、なんでもないなんて通じないよ」
「えぇ〜、ひどいなぁ。そこは大人としてサラッと受け流してくださいよ〜」
梶「受け取るものが何もないんだから、流すものもないでしょ。言って楽になることもあるし、ただでさえすぐ溜め込むんだから」
「なんか、兄貴みたいですね」
梶「正真正銘お兄ちゃんですからねw」
「おにぃちゃん、いっけめーん」
梶「ほら、兄ちゃんにどんと話してみなさい？」
胸を張りほんとにどんと叩く梶さん。
彼の背中を何度も見てきた。それはいつだって頼もしい先輩の姿。役に向き合う真剣な役者の背中。
かっこよくて、焦がれて、何度も励まされてきた。いつも握ってきた拳に、見る度に踏ん張った足。その姿を焼き付けようとした目を、彼の澄んだ目にぶつける。
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作者名：ななき。 | 作成日時：2019年5月7日 20時
