心臓に響く花火の音 ページ38
そのまま握られた手を振りほどくことも無く、近くの公園に来た。
良「とりあえず消毒、染みるけど我慢して」
「うん、……ッ…」
良「………これで良し。あと、痛いところは?」
「だいじょうぶ。それより、良平先輩の方が怪我してる……」
ガーゼに消毒液を垂らし当てる。腕、足、首、指……傷をポンポンと消毒していく。
良「ッ……たぁ……」
「昔っからしてるのに、慣れないよね」
良「慣れたらダメでしょ、これは」
「ほら、顔上げて」
良「ん」
頬の傷、多分枝で切ったんだろう。
良「なあに、そんなにじっとみて。あ、もしかして惚れちゃった?」
「……今そういうのいいから」
良「えぇ〜」
「……勝手に行動して、ごめんなさい。……あと、助けてくれてありがとう」
頭を下げると、良平先輩はわざとらしく溜息をついた。
良「いいよ、昔から助けるのは俺、守るのはアイツって決まってるもんな……」
独り言みたいにぼそっと呟くと、私の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「な、なに」
良「なんでもなーい」
「えぇ……」
『やめてよ』と顔を上げた瞬間、心臓がはねるような大きな音が鳴った。
「花火……」
良「……そっか、ここからでも見えたんだ」
紅、蒼、翠、黄、朱、紫………。あたりを染める花火の光が色とりどりに公園を照らす。
良「……たこ焼き、冷めちゃったけど食べよっか」
「はい、そうですね」
もう来ないと思ってた彼との夏。
また同じ花火を隣で見ることになるなんて。
なにか話さないとと思うのに、言葉が口から出てこない。いくら探してもいいセリフが思いつかなくて、私はただただ花火を見上げていた。
良「じゃあ、また新学期でね」
「はい。また新学期で」
良「おやすみ」
「おやすみなさい」
手を振って家に入る。誰もいない部屋。体温のないリビング。まあ人がいたら怖いんだけど、私一人暮らしだし。
携帯をほおり投げて、良平先輩にもらったラムネを開ける。
ぬるくなった炭酸はただ甘くて、甘すぎて舌にまとわりつく。カランコロンと透明のエー玉を転がして、それから一気に飲み干した。
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ななき。(プロフ) - 春さん» こちらにもコメントありがとうございます!これからも気長にお付き合い下さい! (2019年10月20日 13時) (レス) id: 42df20d673 (このIDを非表示/違反報告)
春 - 新作おめでとうございます!応援してます!(^-^)v (2019年10月20日 10時) (レス) id: 10bd62f869 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ななき。 | 作成日時:2019年10月19日 21時