彼女が死んだ。【文スト】

【死】〜黒蜥蜴より、銀、立原、広津の手紙〜 ページ6

彼女が死んだ。
兄さんが尊敬する人だ。

貴女は無口な私から、なんとか言葉を発させようと必死でした。
毎日話し掛けてくださるのは勿論の事、休暇があれば街へ連れ出し、暇さえあれば茶菓子を用意してもてなす。

初めて貴女に向かって話した時、貴女は云いました。

『勿体無さ過ぎる』と。
一体何を云うのかと思えば、一気に気が抜けて笑ってしまいました。

『綺麗な声なんだから大事にしな』

そう云って、顎にかけたマスクを戻してくれた貴女が、もう此処には居ないことに違和感を覚えます。どうして行ってしまったのですか。どうして庇ったのですか。

でも問い詰めても答えが出ないのは知っています。
そんなもので世の中は溢れていると貴女が云ったので。

私から、最後に。
有り難う御座いました。







俺はこんな銀の野郎みたいな堅っ苦しい文を書く気はねェし、書いたこともねェから、云いたい事だけ書き連ねる事にする。

姐さん。
俺はアンタに守られて生きてきたのかもしれない。
だけど、俺だって人を守れる強さに憧れてた。
其れこそ、アンタみたいな、な。

樋口の姐さん、芥川の兄貴の救出の手助けに俺らが登場して、阿呆みたいに口開けてたぜ。
傑作だろ？

そん時、嗚呼これで良かったんだろうな、って思えた。
あんたの気持ちがちったぁ理解できたかもしんねぇな。

有り難う、姐さん。









私からは先ず、先程の立原の文をお詫びさせて頂きたい。
貴女には幾ら感謝と謝罪を述べても足りぬ程の借りがあると云うのに、酷い文だ。

だが、これでも彼が今にも泣きそうな顔で書き殴った文なので、貴女に対しての敬意が枯れていない事は忘れないで頂きたい。

私は、貴女が自分にとって至高の御方だと考えている。
お仕えできて幸せでした。

有り難う御座いました。


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手紙は此処で終わっている。

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良い上司が、死んだ。

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