検索窓
今日:2 hit、昨日:20 hit、合計:462,004 hit

46話 ページ46

.








「なんで、来ちゃったの……。」

「むい、ちろう、くん、」



Aは無一郎の姿を捉えると、その場でヘナヘナと座り込んでしまった。

無一郎はそっとAの元へ歩みを進めると、Aのことを思いっ切り抱き締めた。



本当は、ずっとずっとこうしたかったんだ。



「君には、生きていて欲しかったのに…っ」

「そ、れは…!私だって同じだよ…生きてて欲しかった…姉様達に、無一郎君にっ」



Aはおずおずと無一郎の背中に手を伸ばし、ぎゅううっと無一郎を抱き締め返した。

今はもうないはずの体温が伝わってくるみたい。



「…っごめんね、ずっと、嘘ついてて…。
君の中の“むいちゃん”って女の子は、最初からいなかったんだ…っ」



ごめん、ごめんね…と無一郎は何度も呟いた。



「君にずっと近づきたくて、結果嘘をついたんだ。許して欲しいなんて、言わない。でも、でも…っ」

「無一郎君…。」



Aは詫びの言葉を何度も何度も繰り返す無一郎の言葉を制した。

はっとした無一郎が顔を上げると、目にいっぱいの涙を貯めて優しい微笑みを湛えるAの姿がそこにあった。



「私、気づいてたよ。ずっと。むいちゃんは、本当は男の子だってこと。
姉様達ほどの知識があるわけじゃないけど…男女の身体の造りの違いくらいなら、よく見ればわかるから。」



無一郎はその言葉に息を詰まらせた。
雷にあたったような感覚に陥った。



__気づいていた?ずっと前から?



「っごめ、」

「謝らないで…!」



Aは無一郎の謝罪の言葉をかき消すように声を上げた。

そして無一郎を抱き締める腕に更に力を篭めると、無一郎の肩口に顔を埋めた。



「…あの、ね。“むいちゃん”が男の子だって気づいても、不思議と怖くはなかったの。男の人って怖い人達ばっかりなんだと思ってたけど…違うんだって知ったから。

無一郎君みたいに優しい人達ばっかりだって気づくことができた…。」



全部全部貴方のお陰なの…とAは呟くように口にした。



その言葉に無一郎は何も返さず、ただただ愛しい人を抱き締めた。この温もりを、もう二度と放すまいと言いたげに。力強く、そして繊細な硝子を取り扱うかのように優しく。









噎せ返るような花の香り。
二人の長い髪をさらさらと揺らす幸せを運ぶ柔い風。
一面に広がる澄んだ蒼穹。

そして、愛しい人の温もり。



全部全部、紛れもなく本物だったんだ。

47話→←45話



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (793 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
934人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

ピクルス - 号泣 (2020年9月9日 14時) (レス) id: 2a7c012e78 (このIDを非表示/違反報告)
ピクルス -  うわぁぁぁぁぁぁぁあん!無一郎くん死なないでぇぇぁえぇぇぇぁあぇぁあええ (2020年9月9日 14時) (レス) id: 2a7c012e78 (このIDを非表示/違反報告)
白霞(プロフ) - わたぬきくん。さん» お祝いのお言葉ありがとうございます!そのように言って頂けて嬉しい限りでございます!最後までお付き合いくださりありがとうございました! (2020年8月30日 10時) (レス) id: 7828c1c33e (このIDを非表示/違反報告)
わたぬきくん。(プロフ) - テスト期間終わってきたら完結してた…ああもう号泣です!完結おめでとうございます!(泣) (2020年8月29日 14時) (レス) id: 9e97a6dad3 (このIDを非表示/違反報告)
白霞(プロフ) - リムさん» お祝いのお言葉と応援のお言葉ありがとうございます!そのように言って頂けて光栄の極みでございます…!本当に感謝の限りです。最後までお付き合いくださりありがとうございました! (2020年8月27日 0時) (レス) id: 7828c1c33e (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:白霞 | 作成日時:2020年7月23日 20時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。