悪戯な雫 (イタズラ ナ シズク)

12、書と魂とネームバリュー ページ12

　
　
　
「お客様もお客様らしい、素敵な字を書くんでしょうね。

僕には良し悪しなんてわかりませんけど。

お客様のおっしゃる通りネームバリューがモノを言うなら、作品の価値は作者の価値なのではないですか。

お客様に心奪われた人からしたら、お客様の書く作品はきっと、世界の誰の作品よりも尊いんです。

だって、作品は書く人の魂だから……

あ、スミマセン。

おしゃべりが過ぎました。」




K「いや、ありがとう。

ちょっと力もらったわ。」




「爪に墨が残ってましたよ。

お仕事にだいぶ精をだされたんじゃ？

右肩がガチガチのカチコチです。」




ポイントに親指が食い込む。




K「う！ あぁ……」




「気持ちイイですか？」




K「ん゛ーーーーー」




やっぱり声って出ちゃうもんだな。




場所柄風俗紛いのマッサージ店だろうと馬鹿にしていた分、良い意味での期待の裏切り方ハンパない。




K「じゃあ背中から腰もお願い。」




「承知しました。

腰もほぐして差し上げます。

書家の先生にもなると、全身全霊が磨り減るまで集中されるんでしょうね。

素人考えですが、手先だけでやってる内はダメな気がします。」




パフォーマンス書道は別にして、格闘技みたいに全身酷使するものでもない。




夕べは創作活動と格闘したのは確かだが、こんなにバッキバキなのは、度を越えて書き続けたから。




書いてる間はアドレナリンが出まくってて、疲労すら感じない。




好きな事をしてたら、みんなそうだろう。




「まあ最初から僕には才能も無いんですけど、字だけはもっと綺麗に書けてたら、他人から向けられる目も違って、人生まで違ってたんじゃないかな〜と思いますよ。」




達筆である事に越した事は無い。

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