【HQ】精神安定剤 【稲荷崎】

【北信介の想い】 ページ19

「朝よりは、顔色ようなったな」


放課後の部活。

練習メニューを半分終え、休憩にそれぞれ入っている時だった。

タオルで汗を吹いている赤木と大耳にそう言われているAの顔色を見れば、確かに朝よりは血色がよかった。


目元の腫れは相変わらずだが、ぎこちなかった笑顔はどこかに吹き飛んだようで、前の状態へと少しずつ戻っているようだ。




「信介先輩」

「どないしたん、A」



頬を弛めながら駆け寄ってくるAに、心がほっこりと温かくなる。



そう、この姿がずっと見たかった。

泣き腫らした顔で、無理して笑うのでは無く。

心の底から無邪気に笑う、可愛らしい顔を。






「さっきの練習で、少し突き指してたでしょ？ テーピング、しましょうか？」



小さなことでも気づく、洞察力の良さ。

体調も本調子に戻ってきているようで、少しだが北は安心した。

朝から放課後の間で何があったかは分からないが、いつものAに戻りかけているのならそれでいい。




「ほなら、頼むわ。酷く突いてはおらんのやけど、少し違和感があってな」



指の状態を見ながら、指にテーピングを巻いていくAを見つめる。

最初の頃は下手くそだったテーピングは、今ではもうお手の物のようで。

丁寧に、かつしっかりと固定をされる。




「ありがとうな、A」

頭を優しく撫であげれば、目を少し細めて微笑む。

その姿は、少し子どものようにも見えて可愛らしい。





それと、何故か ”あの3人” がこっちを少し睨んで見ているのは気のせいだろうか。

いや、気のせいではないな。



俺のものに触れるな。とでも言わんばかりの視線を向けてくる。







＿＿＿ まぁ、Aは渡さへんよ。

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