弐拾玖＊相棒のために… ページ30
手入れ部屋の向こうにいる彼は小さく刀を１振りすると、静かに言った。
「…審神者は何処？ここには審神者が来るはずだよね」
低く暗い声色だが、やや高めの声。
どうやら２人がその人に教えたようだ。
「厚と乱に聞いたのか。それでわざわざ待ち伏せってか…ご苦労なこった」
「そうだよ。わざわざ待ってやったんだ…審神者を出せ、薬研」
「そう急かすな。今殺されちゃ困るんだよ」
「困る…？何で」
「大将には俺っち達を手入れしてもらわなきゃいけないからな」
「手入れ……そのあとにまた傷つける気だよ」
相手はなかなか納得せず、それどころかだんだんと心が荒ぶっているようだ。
刃先を何度も床に振り下ろしている。
それは勢いを少しずつ増していってるようだ。
刺す間が少しずつ短くなる。
「分からないぜ？何せ今度の大将は睨むだけで怯えるくらいだからな」
「それが何だッ！猫かぶりかもしれないだろ！？」
その言葉と共に勢いよく床に刀が刺さった。
後退りはしなかったものの、薬研は少しだけ焦っているようだった。
鞘にそえる手に少しだけ力が込もり、それに加えて押し黙ったからだ。
「清光も手入れされて嬉しそうに笑ってた…。
『次の主は良い人っぽかったよ』って、笑ってたんだ！
久し振りに見たんだよ！清光の笑顔を！！」
だんだんと荒くなり大きくなる声は、とても悲痛なものだった。
床から刀を抜くと、薬研の首筋にあてがった。
それを見た瞬間、私は酷く焦った。
私のせいで傷ついてしまうのか…主と認めてくれた薬研が…。
だが、私が行けば足でまといになる。
守ろうと体を張ってくれた薬研の気持ちを無駄にしてしまうかもしれない。
「あの笑顔をあのままに終わらせる。
あの顔がまた悲痛に歪む前に！審神者を殺すんだ！！
もう２度と清光の泣き顔は見たくないんだ…ッ！
……薬研なら分かるよね？」
怒号のように放たれていた声は涙ぐんだものになった。
弱々しく零れる声に、胸が締め付けられた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 51人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「刀剣乱舞」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ヒタリ | 作成日時：2018年8月28日 23時
