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片手で持っていたスマートフォンを肩に挟みながら階段を下り洗面台へと向かう。


「はい。例えば、金融機関から大量の借金をしたすぐ後に彼は車を買っています。それも今私の家にある父にあげたコルベットC7がそれです」
「わざわざ借金をしてか…?」


洗面台に常備してあるコットンを手に取って水に浸したそれで顔を洗うようにふき取った。


「そうです、そして私が知ってる限りそのコルベットを父にプレゼントした日はちょうど――」


赤井さんの通話途中、家のインターホンが鳴り響く。


今日は非番、副業で整備士を引き続きしているもメンテナンス関連のリピーターも去年の11月から5月までは断りを入れているはず。


洗面台から「はー−い」と返事をしながら肩と耳の間に挟んでいたスマートフォンを話して保留のボタンを探る。


「すいません、すぐ戻るので……えっと…保留………」
「そのままで構わないよ」
「ああ! すみません!このまま置いときます!」


洗面台の端にスマートフォンを置いて小走りで玄関先へと向かうと、ドアのすりガラスから全身緑色の服を身にまとった長身の男性の影が見える。

その服装から宅配便の人だと分かると私は特に確認することもなく裸足のまま玄関前の扉を開けた。


開けた瞬間、冷たい風が玄関を満たすがどこか生暖かい春の気温にも関わらず、まだ乾ききってない顔に付いた水滴が異様に冷たく感じた。

宅配員の持っている箱は差ほど大きくなく、郵便物で言う70サイズに収まる程度の大きさだ。所々へこんでおり、箱を巻くようにして貼られたガムテープとローマ字表記で書かれた住所と氏名を見るにおそらく海外からの荷物だということが見て取れる。


「宮下さんのお宅でお間違いないですか?」


記載されているローマ字表記の住所と名前を指しながら宅配員の男性が言う。「あってますよ」と頷けば「判子は大丈夫です」とそのまま荷物を渡された。


数年待ちだった何かの部品だろうか、それとも父の友人に依頼したワックスかオイルだったか。

長い間整備士から離れていたものだから自分が何を依頼して何を予約していたのかさえも曖昧になっている。多分ガレージに置いてあるノートパソコンのメッセージ履歴を探れば出るはずだ。



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作者名:冬 磨 | 作成日時:2022年11月13日 14時

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