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プロローグ ページ1

「お父様、私、絶対に【ユリア】になるわ。お父様も手伝ってね、絶対よ?」

少し間の空いて返ってきた父の承諾を聞いて、私は思わず、前にいる人のよさそうな父を見た。私が同じようなことをいったときよりも、少し老けた彼。その顔は、10歳違いの腹違いの妹のために、柔らかく緩んでいた。

――――私のお母様が、浮気して、勘当されてから、早2年。
私の居場所は、徐々に徐々に、姿を消していく。まだ白石家の桟敷の近くで、年に1回の舞踊会を見れているだけでも、いいくらい。軈ては、この国からも、追放されて行く宛もなく飢え死ぬ、というのがオチだろう。それ以外だったら、多分いい方。

正直、今死んでも、何ら可笑しいことはなかった。圧倒的なやるせない空腹。もう5日はろくなものを食べていない。

長年の付き合いの人見知り、とおう欠点から、周りの人に話しかけるなんてこともできない。また、自分が着ている、従属の証の服を見られるのも嫌だった。

だんだんと、疲れたように機能を忘れる腹部。桟敷には人がたくさんいて休むこともできず、桟敷の端に続く林へ、足を使い、腕で枝を掴み、進んでいく。私がいるのは、上級貴族の従者ひしめく、中級桟敷。私に同情のしようもない人たちしかいない桟敷なのだ。

やっと着いたところは、茨が生えていたが、休めるのならまだいい。私のいるところは大きな木々に隠れ、私の姿も、白石家にはみえない。遥か上空に見える小さな星の屑が、揺れる木々のせいで瞬いていた。

――――ああ、綺麗。

もういっそいなくなってしまおう、そんな思いが脳を支配し、そっと、拒絶反応が起こらないようにゆっくり瞼を閉じる。だが、瞼を閉じて1秒もしないうちに、ガサ、と葉が引っ掛かって、散る音を聞く。誰が、なんて気にもしないで、重力に従った――――はずなのに。重力に従っていたはずの上半身は何故か少し浮いていて、両頬になにか添えられている感覚。驚いて目を開けると、思いがけず怒号が響いた。

「何やってんだお前! このままだと死んでしまうぞ」

目の前で揺れる橙の髪が眩しくて、思わず笑う。

(死に人にこんな人会わせたって、何の得もないのよ、神サマ)

意識もせず、瞼は徐々に、降りていく。別にこんな終わりも嫌ではないのだけれど、眩しい橙が、消えてなくなるなるのが、少し心残りだった。

1話 私の太陽→



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ましら(プロフ) - fruitさん» 返信遅れてごめんね!そう言ってくれて凄い嬉しい!読みにくいし作品はバンバン消すわの私の作品を追いかけてくれるなんて、凄い嬉しいよ。fruitちゃんの優しいところ凄い好き。コメントありがとう! (2017年9月16日 21時) (レス) id: 512c5a6245 (このIDを非表示/違反報告)
fruit(プロフ) - おおー!またもや面白そうな作品で・・・!この作品も追いかけさせていただきます(^。^)更新頑張ってね!! (2017年7月26日 21時) (レス) id: e09a409b3e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ましら | 作成日時:2017年1月30日 16時

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