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48: 外の世界 ページ9

「ぶっはは!!どっぽが影分身してるーおもしれー!!なぁなぁおれっちにもおしぇーて」
「…飲み過ぎだぞ。ああもう…水持ってくるからその辺にしておけ。あとトイレ行ってくるから、雪切くん、何かあったら大声で叫んでね…。」


 乾杯して初っ端からハイペースだった一二三は既にべろんべろんだった。頭を抱えた独歩がトイレに向かう。その足取りはしっかりしているがいつもよりやや饒舌にはなっていた。
 雪切はと言えば、乾杯はしたものの、飲みなれない上に苦いそれを飲み干すことは難しかった。

 据わった目で酔っぱらった一二三を眺める雪切。
 やはり酒というものは人を別人にする効果があるらしい。

 転がったビールの缶を拾い上げると、それを赤い頬の一二三が雪切を見つめる。


「あ〜ゆっきー、前髪なげー…ちょっとーこっちおいでぇ〜。」


 語尾をのばした話し方は完全に絡み酒のオヤジだが、高揚した頬や熱っぽい瞳はただでさえ整っている容貌をさらに扇情的に見せる。


 自分が飲むことは滅多にないが酔っぱらいの相手は幾度となく行ってきたため大人しく一二三に近づく。しかし、彼が家主の友人であるという点が今までと違う。
 押し倒していいのか。押し倒されるのか。まずそれが正解なのか…。


 雪切が頭を悩ませると、一二三が雪切の髪を一束つまむ。そして自分の髪につけていた針金のような黒いピンを指で押し開け雪切の茶色い髪に潜り込ませた。

 右側の視界が明るくなる。得意げな一二三の顔がはっきり見えた。


「ほーら、かっこよくなった……あぁ〜」
「う、わ…ぁ。」


 髪が寝癖のように押し上げられる感覚に雪切が手を触れようとした瞬間、一二三の両腕が首に回され、身体全体に重さが伝わる。抱き着かれているのを理解することに時間は要さなかった。


_酒臭いし、重い…。


「あ〜ホンっと肌きれーだし、髪ふわふわ。身体ほっそ…ちゃんと食ってんの〜?マジで。」
「あの…いざなみさ_」
「だっから!ひふみだってばぁ!!ほーら!」
「……。」


 どうしたらいいかわからず、とりあえず酔っぱらいの背を猛獣にするような手つきでそっと撫でると、しばらくしてすやすやと規則正しい寝息が聞こえた。


 独歩が戻ってくるまでその状態だった雪切は翌日の筋肉痛を覚悟した。

49: 雪切の世界→←47: 観音坂独歩の世界



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Last(プロフ) - のそけさん» ありがとうございます。シリアスものは批判という名の逆境も多いですが、そう言っていただけるととても嬉しいです。 (2020年5月23日 22時) (レス) id: ec5508f4a5 (このIDを非表示/違反報告)
のそけ - つらいけど、いい作品でした。ありがとう。 (2020年5月16日 19時) (レス) id: d765cbd891 (このIDを非表示/違反報告)
ぴみゃ@ごりらー(プロフ) - え……好きです……() (2019年10月31日 17時) (レス) id: e205c70a13 (このIDを非表示/違反報告)
Last(プロフ) - 彩晴さん» こんにちは。小説を書いていて喜びを感じる時は、作品を書きあげた時と、やはりこうして感想をいただいた時ですね。それはどんなに時間が経っても変わることは無い様で。僕からも感謝を。この作品を愛していただき、ありがとうございました。 (2019年5月16日 23時) (レス) id: ec5508f4a5 (このIDを非表示/違反報告)
彩晴(プロフ) - こんにちは。作者さんの世界観に取り込まれて、一気に読破してしまいました。話の流れや表現の仕方、なにからなにまで自分好みで。読んでいてとても心動かされる作品でした。完結してから期間あいておりますが、この感謝を伝えたくて。これからも作品楽しみにしてます。 (2019年5月16日 17時) (レス) id: 332aee91a7 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:Last | 作成日時:2018年12月16日 21時

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