61: 雪切の世界 ページ22
息苦しい。
首が一文字にチリチリと熱を持ち食い込んだ刃が雪切の首の皮を裂いている。
今まで受けてきた痛みに比べれば5本の指にも入らないだろう。頭は酷く冷静だ。それもそのはず、これを望んでいたのだから。
辛うじて確保されている気道から必死に空気を吸い込む。つま先立ちになりながら上を向かざるを得ない雪切はぼうっと遠くを見つめた。
自分を囲む数人の男。二つの陰。目の前と首を往復する包丁。
死にそう。
死ねそう。
これでいいのかな。
酸欠により、感覚と乖離した頭が雪切の精神を別のものへと変貌させていく。
そんな脳を繋ぎ止めたのは、苛立った白狼の声だった。
「おい、手前。助かる気あんならちっとは男気見せろや。」
ちらとその方向を見ると、いつか会った男が確かに雪切に向かって話しかけている。その表情はまるで家畜の選別を行っているようだ。
「だ、だァれ！！ま、マイク取り出したらコイツ…こ、ころ、こすぞァおいぃッ！！！」
首に当てられている包丁。薬でもやっているのか叫んでいる口からは生もののような腐臭と酸の酸っぱい匂いが漂う。呂律の回らない口調でさらに首をきつく締められる。同時に首の痛みが増す。
この程度、何ともない。けど、
あの視線、嫌だな。
一番最初に会った時から、あの目は嫌だった。野蛮で、他人のことなんて考えていない目。
「雪切君！！」
寂雷の悲痛な声が届く。その声に見合う悲痛な面持ち。
血の気の引いた顔はこちらを心配してのものだろう。
俺、心配されてるんだな。
死にたいんだけどな。
嫌だな。
…？嫌ってなんだ。
死にたいんだから、丁度いいじゃないか。
…けど。
あの顔を見ているだけで、どうしてこんなに怖くなるのか。
目を閉じたら二度と、見られない。もう会えない。それが「死」だ。それくらい雪切も理解しているがしかし、瞬きをするたびに、恐怖で体が竦み上る。
おかしいな。
死にたいのに
死にたくない。
違う
こんなところで
死にたくない。
そうだ
死にたくないんだ。
俺
あの人に
あの人のところに戻りたい。
ああ、そうだ。
わかった。
美しい顔を歪ませ、ただ自分だけを見る目。
安心させたい。笑ってほしい。
最期があんな顔なんて、嫌だ。
誰にしも訪れるたった一度。だからこそ、彼は乞う。
そっか。俺、あの人に＿＿
最期には、笑っていてほしいんだ。
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Last(プロフ) - のそけさん» ありがとうございます。シリアスものは批判という名の逆境も多いですが、そう言っていただけるととても嬉しいです。 (2020年5月23日 22時) (
レス) id: ec5508f4a5 (このIDを非表示/違反報告)
のそけ - つらいけど、いい作品でした。ありがとう。 (2020年5月16日 19時) (レス) id: d765cbd891 (このIDを非表示/違反報告)
ぴみゃ＠ごりらー(プロフ) - え……好きです……（） (2019年10月31日 17時) (レス) id: e205c70a13 (このIDを非表示/違反報告)
Last(プロフ) - 彩晴さん» こんにちは。小説を書いていて喜びを感じる時は、作品を書きあげた時と、やはりこうして感想をいただいた時ですね。それはどんなに時間が経っても変わることは無い様で。僕からも感謝を。この作品を愛していただき、ありがとうございました。 (2019年5月16日 23時) (レス) id: ec5508f4a5 (このIDを非表示/違反報告)
彩晴(プロフ) - こんにちは。作者さんの世界観に取り込まれて、一気に読破してしまいました。話の流れや表現の仕方、なにからなにまで自分好みで。読んでいてとても心動かされる作品でした。完結してから期間あいておりますが、この感謝を伝えたくて。これからも作品楽しみにしてます。 (2019年5月16日 17時) (レス) id: 332aee91a7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：Last | 作成日時：2018年12月16日 21時
