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「彼、料理できるのかい?」

 知らなかったらしい寂雷は大層驚いている。

「妹さんに夕食を作ってたと言っていました。」
「そうなんだ…。」

 寂雷はスマホから目を離すとキッチンの向こうで眠っている雪切に目を向けた。嬉しそうでもあり、寂しそうでもある。

「先生…?」

 声をかけると、寂雷は雪切に目を向けたまま話す。


「昨日、あの後私は彼を突き放してしまったんだ。」
「え?」

「彼がそう捉えているかはわからないけれど、ね。彼が気づいていないことを固く願っている。我ながら最低だと思うよ。」


 その声は自虐的で、独歩は珍しいを通り越してあり得ない光景を見ている気になった。


「…自分でも、わからないんだ。彼をどう思っているのか。どう接したらいいのか。」


 傍から見ている独歩でも分かる。今の言動からしても、寂雷は雪切のことを特別視している。それも、今まで話題にあがる事がなかったとびきりの特別。

寂雷先生、無自覚なのか?意外だ…。

 それ故、空回り気味の発言に独歩は苦笑を堪える。どうしたものかと悩み、やや躊躇いがちに言った。


「雪切くんは寂雷先生のことをずっと待っていましたから…多分、今まで通り接してあげればいい、と思います。」


 言ってしまってから寂雷が驚いていることに気づく。

「…あっすみません、僕なんかが知ったような…。」
「いや、いいんだ…それにしても驚いた。」

 寂雷は優しく笑う。


「独歩君の方が、私なんかよりよっぽど彼を理解しているな、と。」
「そ、うですかね…?」


 寂雷は今度は目を伏せて笑う。


「…そうだよ。私は、私の都合を彼に押し付けてばかりだ。…だから、君たちが彼の友人になってくれて、ほっとしている。」


「先生…。」

 その笑顔は今にも砕けてしまいそうだった。


「よければこれからも、彼と仲良くしてくれるかな。」

「…もちろんです。一二三も、そのつもりだと思います………。」


 そして独歩は決断した。
 とりあえず床で寝ている一二三を叩き起こした。
 驚いている寂雷と寝ぼけている一二三をよそに、独歩は一二三を強制的に起き上がらせ玄関に向かう。


「すみません、先生…始発で帰ろうと思いますので、今日はこの辺で。お邪魔しました!!」
「んーどっぽ…?ってちょちょ!!なに!?」


 速足と扉が閉まる音。ポカンとしている寂雷。
 そして、その音で目を覚ました彼。



 それは恐らく、独歩なりの気遣いだったのだろう。

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Last(プロフ) - のそけさん» ありがとうございます。シリアスものは批判という名の逆境も多いですが、そう言っていただけるととても嬉しいです。 (2020年5月23日 22時) (レス) id: ec5508f4a5 (このIDを非表示/違反報告)
のそけ - つらいけど、いい作品でした。ありがとう。 (2020年5月16日 19時) (レス) id: d765cbd891 (このIDを非表示/違反報告)
ぴみゃ@ごりらー(プロフ) - え……好きです……() (2019年10月31日 17時) (レス) id: e205c70a13 (このIDを非表示/違反報告)
Last(プロフ) - 彩晴さん» こんにちは。小説を書いていて喜びを感じる時は、作品を書きあげた時と、やはりこうして感想をいただいた時ですね。それはどんなに時間が経っても変わることは無い様で。僕からも感謝を。この作品を愛していただき、ありがとうございました。 (2019年5月16日 23時) (レス) id: ec5508f4a5 (このIDを非表示/違反報告)
彩晴(プロフ) - こんにちは。作者さんの世界観に取り込まれて、一気に読破してしまいました。話の流れや表現の仕方、なにからなにまで自分好みで。読んでいてとても心動かされる作品でした。完結してから期間あいておりますが、この感謝を伝えたくて。これからも作品楽しみにしてます。 (2019年5月16日 17時) (レス) id: 332aee91a7 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:Last | 作成日時:2018年12月16日 21時

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