54: 外の世界 ページ15
夜の街を走る。
半開きの窓から冷たい風が流れ込み、雪切の頬を撫でた。
冷たくて気持ちいい。
細く目を閉じる。そして、雪切は隣の運転席を窺った。
ただ正面を見つめハンドルを握る寂雷の表情は、普段通りに見えるがどこか険しくも感じられる。見ているのがバレないように雪切は正面を向いた。車が高層ビルを追い越していく。
…怒っているのだろうか。
それも、そうか。
友人にあんなことをして、怒っていないはずがない…。それに、自分の友人にあんなことをする俺を、許してくれるわけがない。
嫌われる…?嫌だ。
_生きるのに相応しくない。
あの声がまた聞こえた気がした。
「そんな顔をしなくてもいいよ。」
はっとして顔を上げる。
恐る恐る寂雷の方を見るが、彼は相変わらず正面を向いたままだ。だが、心なしかその顔は先程と違って微笑んでいるように見えた。
「……怒って、ます、か…?」
声が震えた。目は泳ぎ、緊張で肩が竦む。
車が停車した。
信号機の赤が目に焼き付くほどに痛い。
寂雷の手が顔に近づき、雪切はぎゅっと目を閉じた。
予想だにしなかった優しい手つきが、雪切の耳元の髪に触れた。
ゆっくりと目を開けると、微笑んでいる寂雷が顔を半分こちらに向けており、目が合う。
その瞳が泣いているように見えて、雪切の心臓がドクンと跳ねた。
寂雷の細く長い指が、雪切の髪の
「一二三君にやってもらったのかい?…似合っているよ。」
部屋から車まで腕を引かれていた時は、怖くてたまらなかったのに、今ではまるで別人のようだった。それでも雪切はその声音に、表情に違和感を覚える。
それでも、褒められたことに対する喜びと、ネオンに照らされた寂雷の整った容色に雪切は頬を赤く染める。
怖いのに、嬉しくて、心臓うるさい…。
雪切はいよいよ困惑する。
一体この人はどういうことを思っているのだろう。
寂雷さん…俺は…あなたにとって、何なのでしょうか。
「どう、して、俺のこと…。」
髪を撫でる手に触れようとした瞬間、信号が青に変わる。寂雷の手は引っ込められ、その視線は正面を向いた。
一見、運転に戻ったように見えるその仕草はまるで拒絶のように感じられた。
「…もう、帰ろうか。」
その声は弱々しく、気まずそうだった。
雪切はその声音に、拒絶感は気の所為ではないことを確信した。
酷く、虚しかった。
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Last(プロフ) - のそけさん» ありがとうございます。シリアスものは批判という名の逆境も多いですが、そう言っていただけるととても嬉しいです。 (2020年5月23日 22時) (レス) id: ec5508f4a5 (このIDを非表示/違反報告)
のそけ - つらいけど、いい作品でした。ありがとう。 (2020年5月16日 19時) (レス) id: d765cbd891 (このIDを非表示/違反報告)
ぴみゃ@ごりらー(プロフ) - え……好きです……() (2019年10月31日 17時) (レス) id: e205c70a13 (このIDを非表示/違反報告)
Last(プロフ) - 彩晴さん» こんにちは。小説を書いていて喜びを感じる時は、作品を書きあげた時と、やはりこうして感想をいただいた時ですね。それはどんなに時間が経っても変わることは無い様で。僕からも感謝を。この作品を愛していただき、ありがとうございました。 (2019年5月16日 23時) (レス) id: ec5508f4a5 (このIDを非表示/違反報告)
彩晴(プロフ) - こんにちは。作者さんの世界観に取り込まれて、一気に読破してしまいました。話の流れや表現の仕方、なにからなにまで自分好みで。読んでいてとても心動かされる作品でした。完結してから期間あいておりますが、この感謝を伝えたくて。これからも作品楽しみにしてます。 (2019年5月16日 17時) (レス) id: 332aee91a7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Last | 作成日時:2018年12月16日 21時